• 東京・神宮前から岐阜・美濃に移住した、文筆家で「マーマーマガジン」編集長の服部みれいさん。移住して5年。小さな畑をしたり、お店を切り盛りしながら、いま服部さんが感じているのは「移住して、よかった!」ということ。今回は、コロナ禍を経て、あたらしい暮らしを模索中のフラワースタイリストの平井かずみさんとイラストレーターの平澤まりこさんが、美濃で暮らす服部さんに会いにいき、移住についてお話を聞きました。
    画像1: 『みの日記』発売記念!
服部みれいさん×平井かずみさん×平澤まりこさん|あたらしい暮らしを考える
    画像2: 『みの日記』発売記念!
服部みれいさん×平井かずみさん×平澤まりこさん|あたらしい暮らしを考える

    移住者として美濃の人間に

    平井かずみ(以下、か): ちょうどいま、新型コロナウイルスの影響で多くの人が生活を見直していますね。住む場所を変えたいって思ってる人も、また増えそうです。みれいさんが美濃に移住してからの最初の1~2年と、5年たった今とでは、暮らしはかなり変わりましたか?

    服部みれい(以下、服): はい、だいぶ変わってきています。最初3年ぐらいは東京中心のものさしで見ていて、まわりからもやや異質な存在として見られていたんじゃないかな。

    平澤まりこ(以下、ま): 今はどんなふうに感じていますか?

    服: 3年経ったころから、ようやくこの土地になじんできたんですよね。腸内環境とも関係がある気がしていて、腸内の細菌が美濃の細菌になってきたのかなあ、と思ったり。5年経った今は、移住者として美濃の人間になった、という感じです。

    か: 東京の人ではなくなった、っていう感覚ですか?

    服: はい。ただ、仕事は主に大都市圏の方々としているんですよね。たとえば、田んぼで家族や仲間と稲刈りの作業をして、終わったら東京の編集者とやりとりする、という感じですが、そこは意識が少しぐらぐらとするところがあります。

    か: ぐらぐらっていうのはどういう感じ?

    服: 東京と美濃では、外国と日本ぐらい、カルチャーがまったく違うんです。特に感じるのは、その人の在りよう、アイデンティティの在り方の違いかな。東京の人は境界線がはっきりあって、「わたし」というものがあります。「わたしは○○したい、○○したくない」とか。田舎の人は境界線がないというか、自分の意見をはっきり言うことに躊躇がある。一方で、すごく和の精神があったりして、昔の日本人ってこういう感じだったのかなぁって。もちろん、全員がそうというわけではありませんが、とにかく都市圏の人と田舎の人とでは意識が全然違っていて、そのことに一番愕然としますし……とにかく異空間を時空を超えて移動している感じがすごくある。だからぐらぐらするのかもです。

    画像1: 移住者として美濃の人間に

    か: それは美濃特有の性質という感じでしょうか?

    服:各地方にその土地の日本が残っているんだと思います。テレビや新聞を見ていると日本全体が画一化されたように感じるけど、とんでもない! ものすごく大きな違いがあると思います。このことに大勢の人が注目していないことが驚愕なんですよね……。自然に近いところでは、自己があいまいになる感じがある。みなさん、田舎というと、「ムラ社会」とかネガティブなイメージもあるかもしれないし、そういう部分もゼロではないんだけれど、一方で、ものすごくおおらかなんです。時間も空間もあるし、なにしろ、美濃のひとたち、とにかくやさしいです。一見わかりづらい場合もあるけれど、都市で表現されるやさしさと、田舎で表現されるやさしさの違いがあるかな。とにかく人と人、人と自然の境界線が大都市圏に比べるとあいまいですかね……。

    ま: そのほうがきっと生きやすいんですよね。

    服: その不思議さに、わたしはとても惹かれています。幕末から明治の日本を描いた『逝きし世の面影』(渡辺京二=著 平凡社=刊)という本があるんですが、そのときの日本が、地方にはまだ残っているんですよね。美濃で、近所のお兄さんや年配の人にスピリチュアルな話をしたら、みんな自然に通じるんです。目に見えない世界への違和感が全然ない。

    画像2: 移住者として美濃の人間に

    か: 確かに、地方の人ってそうかも! 知識としてじゃなく感覚として、子どものころから身についてる感じ。

    ま: 東京の人は自然から離れているからかもね。地方には、お祭りや行事など、土着的なものが残っていますよね。

    服: 美濃でもお祭りは盛り上がります。みんな神社の氏子だし、宗教とかスピリチュアルとか以前に、わたしにはすでにみんながスピってるように見えるんです。都市に住む多くの人は、そういった暮らしから離れちゃったんだな、ってこちらにきてつくづく思いました。わたしも、東京にいるころはハーブやオーガニックのものを求めましたが、自然が少ないからそのかわりに摂取していたのかも。オーガニックが急速に広まったのも、都市化された世界とセットで、同じようなことが大勢の人に起こったということかもしれないですね。

    画像3: 移住者として美濃の人間に

    いのちが近い美濃の町

    か: コロナのことがあって、最近は毎日緑豊かな場所を散歩しているんです。これまでずっと本物の花にふれてきているつもりでしたが、やっぱり切り花と根っこから生えている木では、パワーが本当に違うんだなって。自然に囲まれた環境にいたら、暮らしているだけでからだにしみこんでいきますよね。

    画像1: いのちが近い美濃の町

    服: 美濃の「うだつの上がる町並み」は小さいから、どの場所からも、四方に山が見えるんです。毎日見ていると、山や雲の色や表情が日々違っていることがよくわかって、その移ろいを見たり感じたりすることが、何か数値化されたりはしない何かだと思いますが、人間にとってすごく大事なんだなあって思います。

    か: 俳句の季語にも「山笑う」ってことばがあるでしょう? 草木が芽吹いて、花が咲くことを「笑う」って表現するって、なんてすてきなんだろうって。

    服: 逆に、春の勢いがダイレクトで強すぎるなって感じることもありますね。畑の雑草の強さとか、雨が降って川が増水したときのおそろしさとか、そういった自然の激しさとも隣り合わせだったりします。

    ま: いのちが近いですよね。

    画像2: いのちが近い美濃の町

    か: 自然を感じられるようになってくると、ことばを話す必要がないなって、最近は思っています。田舎の人たちが自己主張しないという話がありましたが、そのことともつながっている気がして。「わたしが、わたしが」って言わなくていいというか、もはやことばがいらないなって。今はしゃべってるけど(笑)

    服: 東京では、自然が生み出すような活気を、人がわーっと交流してつくっている感じもします。人間が生み出すおもしろさやたのしさもあって、それはそれで自然の何かというか、芸術という気もします。

    ま: ただ、その活気って空中にふわふわ浮かんでいる感じがするんですよね。自分の周波数がそこに合っているときはいいんだけど、落ち込んだりして周波数がガンと下がると、しんどくて……。自然は下から支えてくれるというか、ものすごく懐が広くて、どんなときでも受け入れてくれるんですよね。

     
    次回、座談会その2|畑や田んぼの効用、お金の話へつづきます。


    〈取材・文/アマミヤアンナ〉

    服部みれい(はっとり・みれい)
    岐阜県生まれ。文筆家、詩人、『マーマーマガジン』編集長。2008年春に『murmur magazine』を創刊。2010年、冷えとりグッズと本のウェブショップ『マーマーなブックス アンド ソックス』をスタート。2015年春、岐阜・美濃市に編集部ごと移住。同年8月には『エムエムブックスみの』オープン。2020年7月に扶桑社より、リアルな移住記録をまとめた『みの日記』の増補改訂版が発売。2020年9月には4年ぶりとなる『まぁまぁマガジン』23号(エムエムブックス)発売予定。
    服部みれい公式サイト
    http://hattorimirei.com/
    エムエムブックス
    http://murmurmagazine.com/

    平井かずみ(ひらい・かずみ)
    フラワースタイリスト。「ikanika」主宰。「cafeイカニカ」を拠点に、花の会やリース教室を全国各地で開催。雑誌や広告、イベントでのスタイリングや、ラジオやテレビなど多方面で幅広く活躍中。著書に『花のしつらい、暮らしの景色』『あなたの暮らしに似合う花』(ともに扶桑社)、『フラワースタイリング ブック』(河出書房新社)、『季節を束ねるブーケとリース』(主婦の友社)などがある。
    http://ikanika.com/

    平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
    東京生まれ。イラストレーター。セツ・モードセミナー卒。著書に『イタリアでのこと』(集英社)『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)ほか。絵本に『森へいく』(集英社)、『しろ』(ミルブックス)など。銅版画で手がけた『ミ・ト・ン』(幻冬舎文庫、小川糸との共著)がある。
    https://www.instagram.com/mariko_h/


    ※ ※ ※
     

    服部みれいさんの『みの日記』が、7/17(金)に、扶桑社より発売されました。

    会社ごと岐阜・美濃に移住した服部さんの美濃での暮らしを記録した連載(『天然生活』2016年1月号~2018年5月号に掲載)をまとめた一冊に、2020年にみれいさんが考える新しい生き方など、新たなエッセイや記事を加えた増補改訂版です。
     
    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)
    天然生活の本
    『みの日記』(服部みれい・著)

    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)

    A5判
    定価:本体 1,300円+税
    ISBN978-4-594-08548-3


    This article is a sponsored article by
    ''.