• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、「夏」の気分を味わえる絵本を紹介します。
    画像: 「夏」の気分を味わえる絵本3冊|ずっと絵本と。

    そろそろ梅雨が明け、夏本番がやってきますね。

    今年はにぎやかに海水浴というわけにはいきませんが、せめて絵本でと思い、夏を感じられる作品を選びました。

    『なつのいちにち』(はたこうしろう作 偕成社)

    画像: 濃い影に、夏の盛りの匂いまで思い出されます。

    濃い影に、夏の盛りの匂いまで思い出されます。

    「いってきまーす。」

    と玄関を飛び出した男の子は、まっしぐらに走ります。

    カモメと追いかけっこするように海沿いを進み、緑の田んぼを抜けて、

    向かうのは、「げんじのたに」。

    画像: 前のめりな走りっぷり!

    前のめりな走りっぷり!

    「げんじのたに」で、男の子はどうしてもしたいことがあるのです。

    それは、でっかいクワガタムシを捕まえること。

    クマゼミの鳴き声、牛小屋の匂い、額にへばりついた髪、さらさらと流れる小川、静かな森……。

    この絵本には、夏といえば、の景色がめいっぱい広がっています。

    画像: でっかいクワガタムシを見つけました。そろそろと近づいて……。

    でっかいクワガタムシを見つけました。そろそろと近づいて……。

    クワガタムシをつかまえようと、果敢に挑んだ男の子の表情も、晴れやかで、健やかで、夏らしさに溢れています。

    『のらいぬ』(谷内こうた絵 蔵冨千鶴子文 至光社)

    画像: 明るい南国の海辺が舞台です。

    明るい南国の海辺が舞台です。

    あついひ
    すなやまに
    みつけた

    まっ黒な野良犬が、てくてくと海辺を歩いています。

    そこで見つけたのは、男の子。

    画像: 男の子に、寄り添うように寝そべる野良犬。この距離感に、胸がきゅんとします。

    男の子に、寄り添うように寝そべる野良犬。この距離感に、胸がきゅんとします。

    ひとりと一匹は、海辺を走って灯台へ。

    そしてふたりは……。

    1ページにひとことあるかないかの、言葉がとても少ない絵本です。

    でも、絵がとても多くを物語ります。

    画像: 高い灯台の上からこうして海を見渡したら、どんなに気持ちがいいことでしょう。

    高い灯台の上からこうして海を見渡したら、どんなに気持ちがいいことでしょう。

    ラストは、いろいろな受け止め方ができます。

    わたしはのらいぬが夢を見ていたのかな、と思っています。

    すごくさみしくて、でも希望もあって、忘れがたい印象を残します。

    『ジャリおじさん』(大竹伸朗絵・文 福音館書店)

    画像: 鼻の頭から生えているのは、ひげ?それとも……と思ってページを開きました。どうやらひげのようです。

    鼻の頭から生えているのは、ひげ?それとも……と思ってページを開きました。どうやらひげのようです。

    いつも海を見て暮らしていたジャリおじさん。

    ある日、くるりと後ろを振り向くと、黄色い道が続いていることに気がつきました。

    ジャリおじさんは、黄色い道を歩き出します。

    画像: このすばらしい色彩!

    このすばらしい色彩!

    ジャリおじさんは、黄色い道をゆく途中、

    ピンク色ののそのそしたワニや、くねくねした鼻のゾウに出会い、いっしょに歩くことにします。

    それからいろいろな人にも出会います。

    この黄色い道は、いったいどこに続いているのでしょう。

    画像: 夜道で出会ったのは、もうひとりのジャリおじさん。

    夜道で出会ったのは、もうひとりのジャリおじさん。

    現代美術家の大竹伸朗さんが作とあって、全ページ、自由な絵が広がります。

    語尾に「じゃり」がつくおじさんの話し方は、つい真似っこしたくなる、リズムのよさ。

    大人のためのアートブックのように見えるかもしれませんが、どっこい、子どももわくわくしながら読んでくれます。

    黄色い道の先にたどり着いた時の開放感は、旅先のように、こころをのびやかにしてくれます。



    画像: 『ジャリおじさん』(大竹伸朗絵・文 福音館書店)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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