• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、争いのない世界をつくるためのヒントが描かれた絵本を紹介します。
    画像: 「戦争と平和」について考える|ずっと絵本と。

    終戦の日である8月15日を前に、「戦争と平和」について考える絵本を選びました。

    争いのない世界をつくるために、わたしたちにできることを考えさせてくれる絵本が、たくさんあります。

    『ぼくがラーメンたべてるとき』(長谷川義史作・絵 教育画劇)

    画像: 平和な日本で、湯気がたちのぼるラーメンを食べているとき、世界では……。

    平和な日本で、湯気がたちのぼるラーメンを食べているとき、世界では……。

    「ぼくが ラーメン たべてるとき、

     となりで ミケが あくびした。」

    こんなふうに、この絵本は、なんでもない日常からはじまります。

    そして、

    「となりで ミケが あくびしたとき……。

     となりの みっちゃんが チャンネル かえた。」

    と、どんどん遠くへ、続いていきます。

    画像: ほのぼのとした雰囲気が伝わってきます。

    ほのぼのとした雰囲気が伝わってきます。

    わたしが何かをしているとき、おとなりさんは、何か別のことをしているわけで、

    そのまたおとなりさんは、また別のことをしていて……。

    わたしたちの住む場所から、遠く離れたところにいる人たちは、いま、何をしているのでしょうね。

    画像: 日本の男の子が家でラーメンを食べているとき、海のむこうでは、働いている女の子がいるのです。

    日本の男の子が家でラーメンを食べているとき、海のむこうでは、働いている女の子がいるのです。

    自分とは違う環境にいる人たちを想像すること、

    理解しようと努力すること、何ができるか考えること。

    難しいことではありますが、この絵本のように、身近なところからスタートしたら、きっと、遠くまで広げていけると思うのです。

    『茶色の朝』(フランク パヴロフ物語 ヴィンセント ギャロ絵
     高橋哲哉メッセージ 藤本一勇訳 大月書店)

    画像: 手のひらサイズ。漢字にふりがなはありませんが、大人が読んであげれば、子どもも十分に理解できる内容だと思います。

    手のひらサイズ。漢字にふりがなはありませんが、大人が読んであげれば、子どもも十分に理解できる内容だと思います。

    語り手の「俺」は、友人のシャルリーとビストロでコーヒーを飲んでいます。

    「俺」は飼っていた白黒の猫を、シャルリーは黒いラブラドルを、処分したばかり。

    なぜなら、茶色いペットがいちばんいいとされる「ペット特別措置法」ができたから。

    画像: 映画監督、俳優などマルチに活躍するヴィンセント・ギャロの絵が入るのは、日本版オリジナル。

    映画監督、俳優などマルチに活躍するヴィンセント・ギャロの絵が入るのは、日本版オリジナル。

    最初はこの法律に驚き、胸を痛めた「俺」ですが、この法律を批判した新聞が廃刊になるころには、しだいに受け入れるようになっています。

    そして、新しく茶色の猫を飼い、茶色の犬を飼いだしたシャルリーと、笑い転げます。

    ほどなくして、「ペット特別措置法」が過去にさかのぼって適用され、黒いラブラドルを飼っていたシャルリーが逮捕されるにいたり、ようやく「俺」は気づきます。

    最初から抵抗すべきだった、と。

    自分の頭で考え、ちいさな一歩でもいいから行動していくことの大切さを、静かに教えてくれる寓話です。

    『プーさんとであった日 世界で いちばん ゆうめいな クマの ほんとうに あった お話』(リンジー・マティックぶん ソフィー・ブラッコールえ 山口文生やく 評論社)

    画像: かわいい小グマさんが、軍靴にしがみついています。

    かわいい小グマさんが、軍靴にしがみついています。

    おやすみ前の、ひととき。

    子どもがおかあさんにおねだりします。

    「お話してくれる?」

    子どもがせがんだのは、クマさんのお話。

    「わかったわ」

    とおかあさんが答え、お話がはじまりました。

    画像: 親しみと落ち着きのある絵は、2016年のコールデコット賞(アメリカで出版された絵本の中から、もっともすぐれた作品を描いた画家に授与される賞)を受賞しました。

    親しみと落ち着きのある絵は、2016年のコールデコット賞(アメリカで出版された絵本の中から、もっともすぐれた作品を描いた画家に授与される賞)を受賞しました。

    おかあさんが話してくれたのは、ある獣医師が戦地に向かう途中で出会った子グマ「ウィニー」のこと。

    ウィニーは連隊の仲間たちにかわいがられますが、戦場に連れてはいけないと、ロンドン動物園に。

    画像: 別れのシーン。切ないです。

    別れのシーン。切ないです。

    さて、「ウィニー」に「ロンドン動物園」と聞いて、ピンときた方も多いことでしょう。

    じつはこのクマが、はちみつ好きのぬいぐるみ「プー」のモデルとなったそうなんです。

    なぜ、わかるのかと言うと、おかあさんが、獣医師だったおじいさんからこの話を聞いていたんですね。

    獣医師とウィニーのお話は、ウィニーとくまのぬいぐるみを持った男の子のお話へと続いていきます。

    どんな事実も、語り継いでいくことが大切だと再認識しました。



    画像: 『プーさんとであった日 世界で いちばん ゆうめいな クマの ほんとうに あった お話』(リンジー・マティックぶん ソフィー・ブラッコールえ 山口文生やく 評論社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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