(『天然生活』2020年9月号掲載)
タサン志麻さんの台所は、意外なほどコンパクト
フレンチのシェフから料理専門の家政婦へと転身、いまや数々のレシピ本も人気のタサン志麻さん。
自宅の台所はさぞ広いかと思いきや、訪れてみると意外なほどコンパクトでした。
でも、使いやすそうで、何より清潔。なんとも気持ちがいい空間なのです。
常にきれいさを保つことができるのは、一連の台所仕事のなかに、こまめに作業を組み込んでいるから。
道具は使ったらすぐに洗い、シンク内やごみ受け、三角コーナーなども、料理のたびに食器用洗剤とスポンジで洗います。
火を使う際も、ガス台に油や汁がとんだらすぐにふき取ります。
「調理の合間にすることなので苦ではないですね。汚れを放っておけばおくほど取りづらくなって、よけいに大変ですから」
もうひとつ、タサンさんの台所の特徴は、道具の数が少なく、すっきりと収納されていること。
「料理に、道具はそれほど多く必要ありません。玉子焼きにしても菜箸とフライパンがあれば十分。わが家では使ったらすぐ洗ってまた使うので、少なくてすむんです」
こうした習慣が身についたのは、狭い台所だったからこそともいえます。
ぴかぴかの作業台やシンクの前で作業するタサンさんの動きは、実に軽やかです。
台所が広いからといって使いやすいとは限らない。
レストランのシェフをしていた時代に効率よく作業することを叩き込まれたというタサンさん。
家政婦に転身してから、段取り力はさらに高まりました。
「家政婦の仕事は、3時間以内で十数品の料理をつくり、台所をきれいに片づけなければいけません。洗い物をため込んでいたらとても間に合わないんです。しかも、訪問する家によって広さも道具の数も全然違う。毎回、台所に合わせて料理をしていくうちに、『こうでなくては』という思い込みがなくなり、少ない道具や調味料で調理したり、調理台が散らからないよう、段取りをよく考えたりするようになりました」
延べ1000軒以上の家の台所で料理をつくってきたタサンさんが実感しているのは、「台所が広い=使いやすい」ではまったくないということ。
すっきりと清潔であること。
必要なものがすぐ手に取れること。
大事なのはそのふたつに尽きるといいます。
「台所がきれいだと、確実に料理の意欲が高まるし、作業もスムーズになるので味にも影響するはず。自分らしい台所で、気負わずに、つくることや食べることを日々楽しんでほしいですね」
きれいを保つための三カ条
1 調理しながら片づける
シンクに洗い物をためてしまうと、それだけ汚れもたまっていくもの。道具は調理中でも使うたびに洗い、もう使わないものはしまう。
2 きれいは日々のくせから
コンロに油や汁が飛んだらすぐにふく。手を洗うついでに必ずシンクに置いた道具を洗う。それが習慣になれば、常にきれいを保てる。
3 ものを増やさずすっきりと
道具が必要以上にたくさんあると出し入れしにくく、探しづらいし、掃除も大変。自分に合う道具を厳選し、手に取りやすい位置に。
タサンさんの台所時間「ふだんの段取り」
調理スタート
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調理しながら片づける
道具を使ったらなるべくすぐ洗う。「その後の作業を考えながら、また使うものは出しておき、ピーラーなど、もう使わないとわかっているものは、都度、片づけます」
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料理が完成
五徳を洗いコンロをふく
台所はきれいな状態
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食事
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食器を洗う
食器を油の少ないもの、多いものに分け、油の少ないものから洗う。洗剤をむだにしないためのひと工夫。熱いお湯で洗うと汚れも落ちやすい。洗ったらすぐふいてしまう
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ざるを片づけ
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コンロをふく
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調理台をふく
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シンクをふく
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乾いたキッチンペーパーでシンクをふいて仕上げる
〈撮影/有賀 傑 取材・文/嶌 陽子〉
タサン志麻(たさん・しま)
大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三ツ星レストランでの研修を修了して帰国後、老舗フレンチレストランなどに15年勤務。結婚を機に、フリーランスの家政婦として活動開始。各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び「予約がとれない伝説の家政婦」としてメディアから注目される。現在は家政婦の仕事に加えて、料理イベント・セミナーの講師や、地方の特産物を活かしたレシピ考案など多方面で活動中。フランス人の夫、2人の息子、2匹の猫と暮らしている。主な著書に『厨房から台所へ 志麻さんの思い出レシピ31』 amazon.co.jp(ダイヤモンド社)、『志麻さんちのごはん』 amazon.co.jp(幻冬舎)、『ちょっとフレンチなおうち仕事』 amazon.co.jp(ワニブックス)、『志麻さんのベストおかず』 amazon.co.jp(扶桑社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです