• 桃の花が咲きはじめ、春の訪れがよりいっそう、喜ばしい行事ごと。文筆家・小川奈緒さんのおひな様と、ひな祭りのしつらいを紹介します。
    (『天然生活』2015年3月号掲載)

    小川奈緒さんの、3月3日の過ごし方

    ここ数年、小川奈緒さんの3月3日の過ごし方は、ほとんど変わっていないといいます。昼間は、ご主人と東京・調布にある深大寺のだるま市へ。帰ってきてから、ちらし寿司とお吸いものをつくって、家族3人でお祝いをする。

    「毎年、3月3〜4日に深大寺で、だるま市が開催されているんです。そのだるま市の縁に導かれるように結婚したこともあり、玄関とそれぞれの仕事部屋用に3つ、だるまを買いにいくのが恒例なんです」

    さらに、偶然か必然か、おひな様も、コロンと丸みを帯びた、だるまびな。愛らしい体つきに錦の着物、福々しいお顔立ちを見ると、心をつかまれてしまいます。

    画像: キッチンとダイニングをつなぐカウンターが、だるまびなの定位置。たくさんの写真立てやご主人が描いたイラストにも、すっとなじんでいる

    キッチンとダイニングをつなぐカウンターが、だるまびなの定位置。たくさんの写真立てやご主人が描いたイラストにも、すっとなじんでいる

    「元は私の姉にと祖母が買ったものなんです。45年ほど前に手に入れた愛媛の縁起だるまです。段飾りの立派なおひな様もあったけれど、なぜか私は、この姫だるまが気に入っていて、毎年、このおひな様が飾られるのを楽しみにしていました。娘が生まれたときに、『あのおひな様、もらってもいい?』と、私が譲り受けたんです」

    専用のガラス箱があり、幅は40cmほど。ほどよいサイズ感で、派手すぎず、といって地味すぎない、すべてが「ちょうどいい」のだと小川さんはいいます。

    「無理なくインテリアになじんで主張しすぎず、さりげない。いい意味でスペシャル感がなく、自然とそこにいるような感じなんです」

    姫だるまの脇に、娘さんと、ご主人のおばあちゃん、それぞれがつくったおひな様を飾り、桃の花を添える。そして、昼間は前出のとおり、だるま市へ出かけるので、お祝いは夜に。乾杯して、ちらし寿司を食べるくらい。そんなに大したことはしていないけれど……と小川さん。それでも、娘さんが成長して年を重ねるたびに、おひな様を見て喜び、ちらし寿司をおいしそうに頰ばる姿に喜びを感じるといいます。

    「娘も、この姫だるまが大好きなんです。娘のための行事なので、本人が喜んでくれるのが、やっぱり一番うれしいですね」

    その昔、子ども心にひきつけられたという姫だるま。家族となるきっかけをつくってくれた、3月3日のだるま市。「だるまは、わが家の守り神的存在なんです」という小川さんの言葉どおり、娘さんの成長と家族の姿をそっと見守るやさしいまなざしが、姫だるまから、たしかに感じられました。

    家の守り神は存在感大の「だるま」

    画像: 靴箱の上に置かれただるまは年々大きくなり、その姿は圧巻。「ようこそ、いらっしゃい」といわんばかりのいでたちで、客人を出迎えてくれる

    靴箱の上に置かれただるまは年々大きくなり、その姿は圧巻。「ようこそ、いらっしゃい」といわんばかりのいでたちで、客人を出迎えてくれる

    玄関の扉を開けると、靴箱の上にドンと鎮座するだるまが出迎えてくれる。

    「すごいインパクトでしょう。皆さん、最初は驚かれるんです」。

    深大寺のだるま市は日本三大だるま市のひとつで、春を呼ぶ風物詩とされている。

    左目に梵字の「阿」(ものごとの始まりを意味する)を僧侶に書き入れてもらい、願いが叶ったら、右目に「吽」(ものごとの終わりを意味する)を書き入れて、お寺に収める。

    お祝いは夜。ちらし寿司とお吸いもので

    画像: 錦糸玉子に、えび、絹さやで、彩りよく。お吸いものには、香りを添えるおぼろ昆布と小町麩。「娘が麩に目がないもので。ちょっと多めなのですが」

    錦糸玉子に、えび、絹さやで、彩りよく。お吸いものには、香りを添えるおぼろ昆布と小町麩。「娘が麩に目がないもので。ちょっと多めなのですが」

    だるま市へ出かけるため、夜のお祝いは、ちらし寿司とお吸いもの、簡単なおかずを数品で。ちらし寿司の具は事前に煮ておき、ごはんを炊いて酢飯をつくり、手際よく準備する。

    画像: 今日のために実家から借りてきたという寿司桶で、ちらし寿司をつくってくれた

    今日のために実家から借りてきたという寿司桶で、ちらし寿司をつくってくれた

    ちらし寿司は小川さんの母の味で、ごまと錦糸玉子をたくさん。

    「細かいレシピを聞いたわけじゃないけれど、自然と母の味に近づいてきました。子どものころから仕上げの担当をしていたからかな」

    家族そろって和菓子好き。春のお楽しみ

    画像: 近所の和菓子屋さんで見つけた、桃最中と桃羊かん。ほんのり桃が香る。熊本県で小代瑞穂窯の二代目を務める福田るいさん作のタイルにのせて

    近所の和菓子屋さんで見つけた、桃最中と桃羊かん。ほんのり桃が香る。熊本県で小代瑞穂窯の二代目を務める福田るいさん作のタイルにのせて

    夫婦そろって自宅での仕事が多いこともあり、お茶菓子には並々ならぬ努力を費やすという小川さん。

    画像: 同じお菓子屋さんで見つけたという、おこし。桃や緑の淡い色合いがきれいで、漆のお椀によく似合う

    同じお菓子屋さんで見つけたという、おこし。桃や緑の淡い色合いがきれいで、漆のお椀によく似合う

    「おいしいものなら和洋どちらでもいいけれど、娘はあんこが大好きなんです。とくに、春は和菓子がきれいだし、おいしい。季節菓子や桃のお菓子など、新しいものを見つけると、ついつい手が伸びます」。

    午前11時半のコーヒー休憩にも、この季節は和菓子が並ぶことが多いそう。




    〈撮影/砂原 文 構成・文/結城 歩〉

    画像: 家族そろって和菓子好き。春のお楽しみ

    小川奈緒(おがわ・なお)
    フリーの編集者・ライター・文筆家として執筆活動を行う。『直しながら住む家』(パイインターナショナル)amazonで見る など著書多数。『心地よさのありか』(パイインターナショナル)amazonで見る など、イラストレーターのご主人・小池高弘さんとの共著も多くある。
    https://www.tabletalk.store/

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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