• 桃の花が咲きはじめ、春の訪れがよりいっそう、喜ばしい行事ごと。グラフィックデザイナー・嶌村美里さんのおひな様と、ひな祭りのしつらいを紹介します。
    (『天然生活』2015年3月号掲載)

    娘の成長を実感するひな祭り

    まあるい顔でにっこりとほほ笑む新王飾り。4月で4歳になる娘さんにと、嶌村美里さんのご両親が贈ってくれた、ひな人形です。

    「母が、よさそうな店を調べてくれて、家族で見に出かけました。木目込み人形は顔が命だそうで、よく見ると、本当に一体一体、お顔立ちが違うんです。これは、数あるなかでも、顔立ち、衣装がピンとくるものがあったんですね。当時の娘の顔にどこか似ていたこともあるかもしれません」

    今年で4回目の桃の節句を迎えるという娘の朝音(あお)ちゃんも、このひな人形が大のお気に入り。箱から出してお顔を包んでいた紙を外した瞬間に「わぁ~!」と感嘆の声を上げたといいます。

    画像: 新しい家に引っ越して1年少し。自宅1階にある和室が、おひな様を飾る場所。娘の朝音ちゃんが何度もおひな様を見に階段を下りていくのだそう

    新しい家に引っ越して1年少し。自宅1階にある和室が、おひな様を飾る場所。娘の朝音ちゃんが何度もおひな様を見に階段を下りていくのだそう

    「去年は、たしか、お昼寝しているときに出したんです。起こしてしまわないようにそ〜っと飾って。でも今年は、娘と一緒に出したりしまったり、お料理も手伝ってもらえそうですね。七五三のときに着た赤い着物を着るって、いまから張りきっているんです」

    それでなくても、一年一年の変化が大きく感じられる年頃。娘の成長を実感する機会が得られるのも、ひな祭りの喜びなのかもしれないと、嶌村さんは、しみじみといいました。

    兄ふたりと妹の4人兄弟、自宅には7段飾りのおひな様があり、大人になっても実家を出るまでは毎年、おひな祭りをやってもらっていたという嶌村さん。そして、3年前の娘さんの初節句には、お母様、妹さん、お兄さんの奥さん、夫のお母様と、たくさん祝福をしてもらったのだそう。

    「ちょうど1歳になる少し前のことですね。初めて出した熱が無事、ひいたあとだったので、うれしさもひとしおでした。ひな祭りやお誕生日は、家族ならではの行事ですよね。娘の成長はさることながら、家族みんなの健康とすこやかな毎日を願って。ささやかだけど幸せな時間を過ごせる、贅沢で特別なひと時だと思います」

    いつか、娘が成長して親元を離れることがあったとしても……。ふと、嶌村さんはつぶやきます。

    「毎年、この季節になったら、おひな様を出してお祝いするかもしれないですね。娘のために用意したものだし、なんというか、娘の分身みたいなものだから。そろそろ春がくるかなという、この時季に、このお顔に会いたくなるような、そんな気がします」

    両親から贈られた、木目込みのおひな様

    画像: シンプルな着物も嶌村さんが気に入っているところ。最近、赤やピンクに目がないという朝音ちゃんも、おひな様の着物がとくにお気に入りだそう

    シンプルな着物も嶌村さんが気に入っているところ。最近、赤やピンクに目がないという朝音ちゃんも、おひな様の着物がとくにお気に入りだそう

    娘の朝音ちゃんのために、宮城に住む嶌村さんのご両親から贈られたおひな様は、東京・浅草にある原孝州の木目込み人形。

    お母様がいろいろ調べて、「浅草によさそうなお人形屋さんがあるから見ておいで」といってくれた。木目込み人形ならではの柔らかさ、愛くるしい顔立ちのなかに、凛とした空気が漂う。

    ご主人と一緒に、ひとつひとつじっくりと見て、「これ」と思うものに決めたそう。

    娘の着物姿に合わせて、白で清々しく

    画像: 新年やお祝いには白を着ることが多い。今年はワンピースを着用予定

    新年やお祝いには白を着ることが多い。今年はワンピースを着用予定

    去年夏の浴衣を皮切りに着物が大好きになったという朝音ちゃん。11月の七五三には、いまは亡き義理のお祖父様が孫娘(夫の妹さん)のためにあつらえた着物を貸してもらって着たそう。本人も気に入り、「おひな祭りにも着る」と楽しみにしているそう。

    「夫が大のおじいちゃん子だったので、祖父の思いを受け継ぐことができ、近くで見守ってくれているような気持ちがして、うれしいですね

    画像: 夫のお祖父様があつらえた着物。朱色と細やかな刺しゅうが美しい

    夫のお祖父様があつらえた着物。朱色と細やかな刺しゅうが美しい

    家族が集まるから、腕によりをかけて

    画像: テーブルいっぱいに並んだ、ごちそう。染付や漆など、食器も、お祝いの食卓を意識して選ぶ。娘さん用のちらし寿司は、松の型抜きを使って特別感を

    テーブルいっぱいに並んだ、ごちそう。染付や漆など、食器も、お祝いの食卓を意識して選ぶ。娘さん用のちらし寿司は、松の型抜きを使って特別感を

    料理教室に長年通うほど、お料理好きの嶌村さん。お祝いのときは、よりいっそう、料理に熱が入る。献立は、ちらし寿司にお吸いもの、煮しめ、かぶと桜の塩漬けの甘酢がけ、小松菜のくるみあえ、生麩の焼き田楽と、たくさん。

    「ちらし寿司の寿司酢は義理の母から教わった配合でつくっています。しっかりとした味つけで、これが一番おいしい。煮しめは私の母の味で、お祝いごとには欠かせません」

    画像: 去年のおひな祭りの際の菱餅を乾燥させて揚げた、おかき。ピンク、緑、白と、ほのかな色味がかわいらしい

    去年のおひな祭りの際の菱餅を乾燥させて揚げた、おかき。ピンク、緑、白と、ほのかな色味がかわいらしい

    画像: ちらし寿司に添えた紅しょうがは、お手製。左は甘酢漬け。どちらも新しょうがの時季にまとめてつくる

    ちらし寿司に添えた紅しょうがは、お手製。左は甘酢漬け。どちらも新しょうがの時季にまとめてつくる




    〈撮影/砂原 文 構成・文/結城 歩〉

    画像: 家族が集まるから、腕によりをかけて

    嶌村美里(しまむら・みさと)
    フリーランスのグラフィックデザイナー。主に、料理や裁縫、インテリアなど暮らしまわりの実用書のデザインを手がける。2014年に都内から神奈川・葉山に住居を移す。季節の移り変わりを感じながら、ていねいに「生活すること」を心がけているそう。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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