(『天然生活』2014年4月号掲載)
眺めて、つくって、 また眺めて
アンティーク、新品、ポップにシック。並んだボタンの表情は、いろいろです。
「人から見たら、きっと単なるガラクタかもしれないけれど」なんていいながら、山中さんはボタンを手に取りました。
「面白いデザインよね。いったいなんで、こんなものつくったのかしら。たかが服の一部分なのに、けっして主役ではないのに、ここまで凝るなんてね」
色、デザイン、質感。それぞれが、何かしらの意図をもってつくられたはずです。小さくても、不思議と強い存在感。眺めているだけで、何かを語りかけてくるようです。
どんな服に付けられていたのだろう? どんな理由で、こんな細やかなデザインが施されたのだろう? 思いを馳せながら、山中さんはじっくりと手元のボタンを眺めます。
大きいボタンは、その個性を生かしてブローチに。小さく繊細なボタンは、光が透けるようなオブジェに。ボタンが語り出すままに、手を動かします。
約束事なんてありません。気持ちにまかせて、眺めて、並べて、「ああ、かわいいなあ」。その感覚がすべてです。失敗も間違いもありません。「違うかな」と思えば、ただ、外せばいいだけのこと。
「ボタンって、そこにあるだけでもうれしいし、何か作品にしても素敵だし。なんといってもいいところはね、いくらでも、元に戻せるところ。飽きてしまったら、また、ただのボタンに戻せばいいの」
お気に入りのボタンは、ときにアクセサリーとなっておしゃれのアクセントとして活躍します。時期がくれば、また“ただのボタン”に戻って、部屋の中で静かに輝きを放ちます。
ときどき取り出して、並べて、ひとつずつの重さを確かめる。ガラス瓶に入れて、窓辺に置いておくだけでもうれしくなるのです。
「ボタンってね、一個でもいいけれど、たくさんあるほうが、かわいさも際立つの。だからつい、幾つも欲しくなってしまうのね」
ガラス瓶の中に、お気に入りのボタンを戻す山中さん。
カラカラカラ……ボタン同士が立てる音に、思わず笑みがこぼれてきます。
「世の中に、宝石好きがいるように、私はボタンが好きなのよ」
山中さんの宝物の本
『おもちゃのいいわけ』舟越 桂・著
彫刻家の舟越桂さんが、自身の子どもたちのためにつくったおもちゃの数々が美しい写真として収められている。「何度見ても、発見があります。作品づくりの刺激になるんです」
作品のつくり方はこちらから
大きいボタンのブローチ >>
白いボタンのネックレスとブレスレット >>
プラスチックボタンのオーナメント >>
小さいボタンのブローチとストールピン >>
ガラスボタンの香りのオブジェ >>
シートボタンをキャンバスに >>
〈作品デザイン・制作/山中とみこ 撮影/有賀 傑 取材・文/福山雅美 イラスト/木波本陽子〉
山中とみこ(やまなか・とみこ)
布作家/専業主婦、古道具屋店主、小学校の特別支援学級の補助職員などを経て、2003年、49歳のときに大人の普段着のレーベル「CHICU+CHICU 5/31(ちくちくさんじゅういちぶんのご)」をスタート。現在は、埼玉県所沢市にてギャラリー&ショップ「山中倉庫」を不定期オープンしているほか、全国のギャラリーなどで展示会を開いている。
Instagram:@chicuchicu315
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです