(『あかちゃんからのかぞくの医学』より)
免疫のカギとなるのは、腸内細菌です
免疫は「働く」ことと「調節できる」ことの両方が大切です。
免疫が働かなければ、感染症を防げませんが、逆に免疫が強く働きすぎると、異物だけでなく、本来は反応しなくてもいいもの(花粉や食べもの)に反応したり、自分の正常細胞も攻撃したりして、病気を引き起こします。
これが、急増している現代病(アレルギーや自己免疫疾患、生活習慣病、がん、うつ、発達障がいなど)の、もっとも根本的な原因なのです。
免疫系は、生まれてからずっと、自分の近くにどのような微生物がいるのかを、取り込みながら確認しています。
免疫系が適切に働くためには、これら微生物と常にやりとりをして、共生するのか、排除するのるのか、どこから排除して、どの程度働くかなどの調節を練習する必要があるのです。
カギとなるのが、常在菌(わたしたちのからだに通常住んでいる細菌)、とくに「腸内細菌」です。なぜなら、病原体を直接排除するために働いているのは免疫細胞(白血球)ですが、それを司って、正しく調節しているのが腸内細菌だからです。
腸内には、免疫細胞の7割が集中しています。免疫の調節には、
・幼少期のできるだけ早い時期から積極的に微生物とふれあうこと
・腸内細菌をはじめとした常在菌を整えること
がもっとも大切です。
免疫機能は、大きく分けると「自然免疫」「獲得免疫」の2種類で、さらにそれぞれ、大きく分けて2つの働きがあります。
「獲得免疫」の働きが調節できていれば、「通常反応」で正しく異物のみを排除しますが、調節できていないと「過剰反応」となり、現代病(アレルギーや自己免疫疾患、生活習慣病、がん、うつ、発達障がいなど)を引き起こします。
腸内細菌の状態がよいことが、ひとの健康の要です
腸内細菌のバランスが良好なら、免疫は適切に調節され、病気などから治る力=自然治癒力も発揮されます。
腸内細菌は、免疫が働く際に、どの程度免疫を働かせるかをコントロールします。すべての菌に役割がありますが、常在菌の中では、いわゆる「善玉菌」が、「悪玉菌」の働きも利用して、統括している状態がもっともよいのです。
腸内細菌は、免疫力のカギとなるほか、消化吸収、栄養素の供給など、ひとが健康に生きるためにもっとも大切な役割を担っています。また、場所、気候、食べものなどによって、棲みつく腸内細菌は変化していきます。
縄張り意識が強く、3歳までに定着した菌はなかなか変化しないため、子どものときから腸内細菌によい暮らしをすることが大切です。とはいえ、その後も腸内細菌の状態は変わります。食事や日常生活が自然なものであれば、状態が整っていきます。
しかし、薬や便利さを追求する現代的な生活によって、腸内細菌はダメージを受けているうえ、環境中の微生物も排除しすぎているので、現代人の免疫機能は、はじめから低下している状態にあると言えます。現代病になる原因は、じつはわたしたちのからだにこそあります。
何かあってから対処するのではなく、食べものと日常生活を整えることこそが、唯一の対策になるのです。
善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割に保たれていれば、腸内環境がよい状態です。 善玉菌は、悪玉菌がいないと悪さを働いたり、さぼることも。
また、悪玉菌の中に、必要な働きをするものもいます。善玉菌でも、特定のビフィズス菌など1種類だけを集中して摂ると、全体のバランスが崩れます。さまざまな菌との共存が大切なのです。
本記事は『あかちゃんからのかぞくの医学』(クレヨンハウス)からの抜粋です
本間真二郎(ほんましんじろう)
小児科医・微生物学者。2児の父。2001年より3年間、アメリカ国立衛生研究所(NIH)にて、ウイルス学、ワクチン学の研究に携わる。札幌医科大学新生児集中治療室(NICU)室長などを経て、栃木県那須烏山市へ移住。同市で医師として地域に密着した医療に携わりながら、農的生活を送っている。『天然生活』2021年6月号より、連載コラムを担当。
『おうちでケアする決定版 あかちゃんからのかぞくの医学 』(本間真二郎・著/クレヨンハウス・刊)
本書は、小児科医であり、ワクチン開発にも詳しい著者による、ホームケア事典。注目の集まる「免疫」に重点を置いた本書は、従来の医学事典にはなかった、これからの時代の、まったく新しい子どもの医学大全となっています。