台所で料理をするように。身近な素材でつくる、ボディケアアイテム
伊那谷にもぐっと春めいた日が増えてきました。色をなくしていた地面にも、気がつけばオオイヌノフグリの花があちこちでちらほら。ムスカリはゆっくりと葉を持ち上げて、花を咲かせる準備を進めているようです。
庭先で飼っているニホンミツバチの巣箱からも、元気よく蜂たちが飛び立つ姿が見られる日が増えてきました。窓辺でおふとんを干せば、ふっくらあたたかに。ぽかぽかの日差しがなによりうれしくて、気持ちまで前向きになるようです。
さて、そんなうれしい陽気のなか、今回は同じ村に暮らす名取裕美さんを訪ね、クレイ(粘土)を使った歯みがきペーストづくりを習わせていただくことにしました。
名取さんは、「Ratara」の屋号で2019年よりスキンケア商品を開発し、販売を行なっている伊那谷生まれの友人です。
彼女の生み出す商品は、ニホンミツバチのみつろうを使った『きほんバーム』や、伊那谷の山々に自生する香り高い「クロモジ」という木の蒸留水を使った『リフレッシュウオーター』など、伊那谷の自然のなかにある天然素材を生かしたオリジナリティあふれるものばかり。
シンプルだからこそ、幅広いシーンで活躍してくれるので、私も日々お世話になっています。
名取さんが今、改めて注目している素材が「クレイ(粘土)」。
クレイは石けん誕生よりも前からある洗浄剤といわれ、世界中で用いられてきました。
日本でも沖縄などでは今も「クチャ」と呼ばれる髪洗用のクレイが受け継がれていますし、クレイを使ったシャンプーやフェイスソープ、入浴剤などを販売するメーカーもあり、根強い支持があります。
この日、手づくりした歯みがきぺーストには、クレイとともに伊那谷の和ハッカとクロモジ、それぞれを蒸留した「蒸留水」を用意してくれました。
クレイと蒸留水のシンプル歯みがきペーストのつくり方
材料(つくりやすい分量)
◎ クレイ ……小さじ2
◎ 蒸留水(今回は和ハッカとクロモジをそれぞれ使用)……小さじ3~4
つくり方
1 金属以外の素材の保存容器を用意し、アルコールで消毒する。
2 クレイと蒸留水を1の容器に入れ、二つがなじむまでしばらく待つ。
3 クレイが蒸留水となじんできたら、むらなく混ざるようよくかきまぜてできあがり。
使いやすい器具を用意してくれていたこともあり、計って、混ぜて、あっという間に完成しました。
意外にも、和ハッカの方が少し甘さを感じる香り、クロモジはすうっとさわやかです。
「むずかしく考えず、好みの硬さを探りながらつくってみるのがおすすめです」と名取さん。
聞けば、そもそもRatara立ち上げの理由も、肌が敏感な彼女がたどりついた、「身の回りのものでできた素材こそ心地よいし、自分に合わせてアレンジできる自由さがある」という考えからきているものなのだとか。
東京で編集プロダクションに勤務し、手づくりコスメの本の編集担当も経験したことのある名取さんならではの発想でした。
「私がつくる商品はどれも特別な技術を使っているわけでもないし、すぐに手に入るシンプルな素材の組み合わせでできています。だから台所で料理をつくるみたいに、誰にでも真似してもらえるものなんです。自然素材を使ったセルフケアはシンプルで、単純で、楽チン。アレンジも自在。それを感じてもらう入り口として、商品というかたちにしているのかもしれません」
今回の歯みがきペーストも、蒸留水がない人は「早く使い切ればハーブティでも、もちろん水とクレイを混ぜるだけでもいいと思いますよ」とのこと。
なるほどたしかに、口内をさっぱりさせてくれる液体とクレイの組み合わせなら、なんでも歯みがきペーストになる……。これはいろいろ試せそうです。
家に持ち帰り、夜の歯みがきから早速、試してみました。びっくりするほど使いやすく、後味もじゅうぶんにさわやかです!
「刺激がほとんどないから、物足りないかもしれません」名取さんはそう言っていたけれど、とんでもない。安心なだけでなく、最近使っていたどの歯みがき粉よりも「さっぱりした」という実感がありました。
歯みがき粉を使うことそのものを嫌がっていた子どもたちにも、早速すすめました。
この歯磨きペーストは、1週間をめやすに使い切り、夏場などは使い終わったら冷蔵庫に入れておくのがおすすめとのことです。
歯みがき粉を買う、のではなく、クレイを混ぜて、使う。
同じクレイで、使い方を変えれば入浴剤にもなるし、顔のパックもできる。
これからも、この習慣を暮らしに取り入れたくなりました。
名取さん、教えてくださってありがとう!
玉木美企子(たまき・みきこ)
農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も
<撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>