料理家・丸山久美さんがバスクの修道女から教わった日々の献立。独自の文化と伝統が受け継がれ、発展を遂げてきたバスク料理は、スペインを代表する味です。知恵と工夫、旬の食材を生かしつつ、無駄なくシンプルに。今回は“春の献立”から、春野菜のスープ、玉ねぎのタルト、フレッシュチーズとはちみつのレシピを紹介します。
(『バスクの修道女 日々の献立』より)
Dos platos y postre
パンと二皿料理、そしてデザート。シンプルな修道院の食事
修道院の食事には習慣に沿った流れがあり、一皿目、二皿目、デザートの順番に食べます。
レストランですと、前菜からスタートして一皿目が始まりますが、家庭や修道院では一皿目から始めます。一度にサーブされることも多く、日本の一汁二菜に通ずると思っていただくと分かりやすいかもしれません。
修道院ではこの流れに従って、主食であるパンを中心に料理のバランスを考え、料理内容を決めていきます。メニューを決めるのが楽になり、栄養バランスも考えやすくなる利点もあります。
primer plato
一皿目
野菜料理、豆料理が中心です。サラダやスープ、ポタージュは頻繁に作られる一皿目のひとつ。また米料理、パスタなどの炭水化物も一皿目に含まれます。重めな料理のときは二皿目にすることもあります。
segundo plato
二皿目
魚料理、肉料理、卵料理が中心です。魚、肉を焼いただけのシンプルなものや、煮込み料理など。卵料理はトルティージャやオムレツ、茹で卵料理など。いずれも一皿目で野菜が不足している場合はつけ合わせを添えることもあります。
聖クララ修道院では水曜日と金曜日が魚介料理、あとは肉料理2回、残りは豆料理、卵料理とおおまかに暗黙のルールがあるそうです。肉を食べないカルメル会では魚介料理と卵料理が中心です。
postre
デザート
果物が基本です。食卓の大きな果物皿に常時置かれた季節の果物から、好みのものを好きな量だけいただきます。栄養バランス的にも旬の果物からビタミンを摂ることは理にかなっていると感心するところです。ヨーグルトやチーズが加わることもあります。そしてそんなときにははちみつも欠かせません。
ときには手間のかからないプリンやクリーム、果物のマセドニアを作る修道女も。ちょっと手のかかったお菓子は私たちと同じで、時間のある日曜日や特別な日に作ります。
pan y bebida
パンと飲み物
パンは主食。毎日の3食に必ず食べるもので、バゲットとバタールの中間のような太さをしたフランスパンタイプのものが一般的です。お水はガラスやホーローの水さしに入れて食卓の上に。ミルクを飲む修道女や、夜にはインスタントココアを飲む修道女もいるそうです。ココアよりもう少し濃いホットチョコレートを冬の夕食後に飲むことも。夏にはレモネードや果物のジュースをいつでも飲めるようにして、水分補給をします。
PRIMER PLATO 一皿目
春野菜のスープ
INGREDIENTES
材料(4人分)
● ベーコン(ブロック) | 100g |
● にんじん | 小1本 |
● セロリ | 1/4本 |
● ブロッコリー | 1/3個 |
● 玉ねぎ | 小1個 |
● にんにく | 1片 |
● グリーンピース | 30g(正味) |
● 絹さや | 50g |
● 白ワイン | 大さじ4 |
● 薄力粉 | 大さじ1 |
● オリーブオイル | 小さじ2 |
● 塩、こしょう | 各適量 |
PREPARACIÓN
作り方
1 にんじんは乱切り、セロリは筋を取って食べやすい大きさに切る。ブロッコリーは小房に分け、玉ねぎとにんにくはみじん切り、絹さやは筋を取る。ベーコンは1cm角に切る。
2 鍋にオリーブオイルを温め、ベーコン、玉ねぎ、にんにくを炒める。
3 にんにくの香りが出たら、薄力粉を加えて粉っぽさがなくなるまで炒める。さらに白ワインを加えて半量まで煮詰め、水3と1/2カップを注ぐ。沸騰したらにんじん、セロリを加えて蓋をし、弱火でやわらかくなるまで10~15分煮る。
4 蓋を取り、残りの野菜を加えてやわらかくなるまで煮る。塩、こしょうで味を調えて器に盛る。
SEGUNDO PLATO 二皿目
玉ねぎのタルト
INGREDIENTES
材料(直径20cmのタルト型・1台分)
● タルト生地(*) | 全量 |
● 玉ねぎ | 400g |
● 生クリーム | 75g |
● 卵 | 2個 |
● 薄力粉 | 適量 |
● オリーブオイル | 適量 |
● 塩、こしょう | 各適量 |
PREPARACIÓN
作り方
1 オーブンを180℃に温めておく。型にオリーブオイルを塗り、薄力粉を薄くはたく。玉ねぎは薄切りにする。
2 型にタルト生地を敷き詰めてフォークで底全体に穴を開け、オーブンシートを重ねる。その上に重石をし、温めたオーブンで10~15分空焼きする。
3 フライパンにオリーブオイル小さじ2を中火で温め、玉ねぎをしんなりとするまで炒める。
4 ボウルに生クリーム、卵、塩、こしょうを入れて混ぜる。3を加え、さらに混ぜる。
5 焼いたタルト生地に4を流し入れ、再度180℃のオーブンで25~30分焼く。
CONSEJOS
ひとこと
タルトを焼くのは特別な日。春にはフィリングに新玉ねぎをたっぷりと使い、その甘みを生かしたタルトを作ります。
*タルト生地の作り方
INGREDIENTES
材料(直径20cmのタルト型・1台分)
● バター(無塩) | 90g |
● 薄力粉 | 180g |
● 塩 | ひとつまみ |
● 溶き卵 | 1個分 |
PREPARACIÓN
作り方
1 型にバターまたはオリーブオイル(ともに分量外)を塗り、薄力粉(分量外)を薄くはたいて冷蔵庫で冷やしておく。薄力粉はふるっておく。
2 冷えたバターを2cm角に切り、ボウルに入れる。
3 2に薄力粉と塩を加え、手ですり混ぜる。バターが見えなくなったら、溶き卵を加えてさらに混ぜる。
4 丸めてラップで包み、冷蔵庫で1時間ほど生地を休ませる。焼くタイミングに合わせ、オーブンを180℃に温める。
5 薄力粉(分量外)をふった台の上に生地を取り出し、型より少し大きく麺棒でのばす。
6 型に敷き詰め、余分な生地を包丁で切り落とす。フォークで底全体に穴を開け、オーブンシートを重ね、その上にひよこ豆などを重石にして敷き詰めて温めたオーブンで10~15分空焼きする。
POSTRE デザート
フレッシュチーズとはちみつ
INGREDIENTES
材料(作りやすい分量)
● 好みのフレッシュチーズ(フロマージュ・ブラン、リコッタチーズ、カッテージチーズ、フェタチーズなど) | 適量 |
● はちみつ | 適量 |
PREPARACIÓN
作り方
1 食べやすく切ったチーズを器にのせ、はちみつをかける。
CONSEJOS
ひとこと
スペインでは、さっぱりとした味わいの羊のフレッシュチーズ“ケソ・ブルゴス”が一般的です。日本では、代わりに手に入りやすいフロマージュ・ブラン、リコッタチーズなどを使うと似た風味を楽しめます。
修道女の毎日のご飯には、ヒントがいっぱい
修道院の料理には、私たちが今必要としているヒントがたくさん詰まっていると思います。キーワードを挙げれば、簡単、短時間で作れる、経済的、残さないで使い切る工夫、保存食、旬の食材、特別な日のうれしいお菓子など。そして何よりも、誰もが「美味しい!」と喜んでくれることが基本になっているのは、私たちと変わりません。
バスクでお会いした修道女のレシピを中心に、今まで訪れた修道院や文献からの料理も交え、日々の献立をご紹介します。食材が手に入りにくいものは、本来の味を損なわず、日本の食材で作れるようなアレンジを心がけました。献立に困ったとき、気軽に活用していただけたら幸いです。
バスクの修道女の料理 10のポイント
1 慎ましやか、経済的、あるもの、予算内で作る
2 簡単、時間のかからない料理
3 軽くて体に優しい
4 旬の食材、栄養バランス、野菜たっぷりを意識する
5 一皿目、二皿目、デザート(おもに果物)の献立を基準にする
6 時間のあるときはデザートを手作りする
7 季節の保存食を仕込み、残り物を工夫する
8 洋食のお手本であり、スペイン・バスクの家庭料理のお手本
9 代々伝わってきた知恵を取り入れる
10 愛情を込めて作る
本記事は『バスクの修道女 日々の献立』(グラフィック社)からの抜粋です
〈料理・著/丸山久美 撮影/原田教正〉
丸山久美(まるやま・くみ)
料理家。スペイン家庭料理教室「mi mesa」主催。アメリカへ留学後、ツアーコンダクターとして世界各国を廻る。1986年からスペイン・マドリードに14年在住。家庭料理をベースにしたスペイン料理を習得しながら修道院を巡り、修道女たちから料理を学ぶ。『修道院のお菓子 スペイン修道女のレシピ』(扶桑社)、『家庭で作れるスペイン料理 パエリャ、タパスから地方料理まで』(河出書房新社)など多数。
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山と海の幸、春夏秋冬の気候に恵まれ、独自の食文化が受け継がれ、発展を遂げてきたバスクの料理。この本は、丸山久美さんがバスクの修道女たから教えてもらった料理に文献からの料理も交え、日本の食材でも美味しく作れるレシピにアレンジして紹介。旬の野菜を使った体に優しい献立を、380頁超のボリュームで収録しています。
簡単、時短、経済的、残さないで使い切る工夫、保存食。また、幸せな気持ちにしてくれるデザートなど、日本でも再現しやすいレシピが豊富に掲載。読み物として修道院やバスク地方の文化や行事についても知りながら、気軽に料理を楽しめる一冊です。