八重桜が道に落ち出したらたけのこの季節
藤井家の「春のおいしいもの基準」は桜です。【桜前・桜後】と、でもいいましょうか。桜の咲く前においしいものはわかめで、桜が散った後はたけのこです。
鎌倉の海産物では、じつはわかめが有名で、養殖もしていますし、天然物も流れ着きます。地元の乾物屋さんにも鎌倉産のわかめがあり、鎌倉らしさが溢れるお土産としても喜ばれると思います。
茶色いわかめを熱湯でゆで、緑色になったら引き上げ、ざっと水で洗い、干して乾かす。子どもの頃は、海岸付近の家で軒先にロープを張り、わかめをカーテンのごとく吊り下げていたものです。春の海岸は、少し磯臭い、海藻の香りが漂う季節でもありました。
そして、白っぽい桜が咲き、ボンボンのようにまんまるい八重桜が道に落ち出すと、たけのこの季節です。八百屋さんでも地元産のたけのこが並びますが、たけのこは買うものではなく、「もらうもの」「掘るもの」でした。
うちの長女が小さかった頃、母が長女を連れ立って朝早くから堀りに行っていました。よくバケツに程よいサイズのたけのこを何本か入れて帰ってきた娘が、ウキウキで私を布団からたたき起こしてくれたものです。
次女がまだ小さかったので、母は長女にたけのこの処理を教えていました。たけのこの皮はどこまで剥けるのか? どこから食べられるのか? 姫皮はどのあたりか。
シュンシュンと圧力鍋でたけのこを加熱している様子は、鎌倉の春の思い出です。
さて、私はいま都心に暮らしています。
一応、たけのこが有名なエリアらしいのですが、まだ竹藪にお目にかかったことはないのです(見渡す限りのマンション、ビル群の谷に住まいがあります)。
たけのこはおいしく調理されたものを母から分けてもらったり、お弁当などで口にしたりするくらい。私は、たけのこは「もらうもの」「掘るもの」という認識なので、買うのはなんだか悔しい。
ということで、都心に越してきてからは買ったことがない。いや、そもそも一度も買ったことがないのです。
ここは街中。たけのこは生えていないし、生えていてもどなたかの土地の持ち物となるはず。しかし、スーパーで売られているたけのこは結構高い。まあまあ立派なサイズなら1,000円はゆうに超えるでしょう。
そして、たけのこは「皮ばかり」です。廃棄率を考えると50%を超えるのではないでしょうか? と考えると、なかなか手が出せないもので……。
先日、仕事の出先でそれはりっぱな九州産のたけのこを見つけました。普段の八百屋、スーパーでもなかなか見ないサイズで、値段はかなりお手頃。廃棄率を考えてもやはりお買い得。昨日引いた昆布だしも冷蔵庫にあるし、そして決めては明日が可燃ゴミの日。
いま買うしかない。持ってみると重い。先日だっこさせてもらった新生児の赤ちゃんと同じくらい? むしろもう少しあるのでは……。
エコバックにたけのこを入れ、肩に背負って持たないと重たいのだけれど、これは期待大です。幸せにウキウキと持ち帰りました。早速、ころがらないようにまな板の上に濡れぶきんを2枚重ねて、包丁を入れて皮をむきます。もちろん、足の間にはごみ箱を置き、大量に出る皮を捨てるスタンバイ済み。
でしたが、意外にも外の皮は少なく、食べられる部分は多い様子。廃棄率30%くらいでしょうか。イボイボの部分などを処理して、縦半分に切り、柔らかいところと硬いところを切り分けて、圧力鍋に入れ被るくらいの水を入れ火にかけます。
私は「あく」は「悪」だと思わないので、「ぬか」は入れません。その方がたけのこの味がしっかりしておいしい。味噌で炒める「南蛮炒め」にするときなど、あく抜きをし過ぎるとたけのこの味が負けてしまいます。
鍋のふたをあけると、 たけのこがゆで上がるいい匂いがする。熱いうちに取り上げ、昆布の出汁に浸しておくと、しばらくおいしい状態を保てます。
さて、ひとり用の土鍋も買ったばかり。今夜はたけのこごはんにしよう。
藤井小牧(ふじい・こまき)
東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。
ホームページがリニューアルしました。
こまきしょくどう 鎌倉不識庵
https://www.kamakura-komaki.com/
ウェブショップもできました。
こまきしょくどう商店
https://gomagomagohan.stores.jp/
※ ※ ※