小豆を栽培して、見えてきたこと
小豆をつくってみたい。そう思い立ち、親戚の畑で小豆の栽培を始めてもう8年! 和菓子職人さんが小豆を育てているなんて、初めて聞いたときは、驚きました。
「和菓子屋で働いていたとき、あんこを炊いていて、どうやって小豆はできているんだろうって思ったんです。そこから!? って、職場の仲間からもびっくりされましたね。農作物の結果が出るのは、一年後。植える時期が少しずれただけで不出来だったり、天候に左右されたり……、いかに小豆づくりが大変か。やってみてわかりました」
昨年は初めて白あんに使う、白小豆にも挑戦。育てるのはさらに難しく、そのうえ小豆より小粒……。鞘に入っている数と大きさを思えば、手間の多いこと。生産者の苦労が身にしみたそうです。
小豆の収穫は11月頃。葵さんは新豆を使っておぜんざいを作り、収穫の喜びをお客さんと分かち合うのが毎年恒例です。
自分がつくるものと、根っこからちゃんと向き合うこと。葵さんの、まっすぐな思いがまわりへの信頼にもつながっているように思います。
思いを分かち合える、まわりのお店といっしょに
「おやつaoi」は小さなショーケースを置いた、町家の玄関先がお店。お持ち帰りが中心です。お客さんとつながる、うれしい場になっているのが、北山「花辺」喫茶部で月一回開催する、「おやつaoi」の出張喫茶。「花辺」は、この連載でご紹介したハーブティーと調香のお店「maka」があるところ。葵さんはこの場所と、ここに集まる人たちが好きで、出張喫茶を始めることになりました。
季節感の味を主役に、メニューは月替わり。合わせるお茶は、「maka」のハーブティー。ここでも懐かしさと新しさ、「8:2」のバランスで。たとえば、梨のあんみつはフレッシュな梨と白花豆の蜜煮や小豆あんを生姜シロップで。いちじくのあんみつは、さっとコンポートしたいちじくにほうじ茶寒天や黒蜜を。4月はずっとやってみたかった、焼きたてのどら焼き。ラベンダーバタクリームと、いちご、粒あんを合わせて。
出張喫茶は「やってみたいな」「作ってみたいな」をカタチにする場所。ハーブティーとの組み合わせも新鮮で、味わう方もわくわくします。
3月から、西陣の八百屋「ベジサラ舎」でも販売をスタート。週に一度、おやつ1種類を届けています。「ベジサラ舎」とのつながりからは、トマトあんみつが誕生。お店で扱うプチトマトをコンポートして、紅茶寒天や自家製粒あん、羽二重餅、スパイス香るレモンシロップと。甘酸っぱい初夏の味です。
つながりから、新しいアイデアが生まれて、新しいファンが広がる。まわりとつながることが、お店を続ける力になっています。
お家時間に、しあわせを届けたくて
コロナ禍、京都まで来られなくなった方のために始めたのが、ネコハコ便。おうちで笑顔になってもらえたら、そんな思いを込めた詰め合わせです。
「甘いものって自然と口角が上がりますよね。なかなか出かけられなくて、ストレスがたまりやすい、今こそ、意味があるんじゃないかなって思ったんです」
ネコのイラストもかわいくて、ふたを開けて、おいしいおやつにまた笑顔。あんこはもちろんすべて自家製。仕込みにも時間がかかるため、お店の営業は週3日。それでもはじめは一人だった厨房に、お手伝いに来てもらうようになって、ネコハコ便や出張喫茶もできるようになったそうです。
だれかに力になってもらうことで、できること、やれることは広がる。葵さんも、コラボや出店を持ちかけてもらったら、できるかぎりいっしょにがんばる。そこからまた、新しいことがはじまるから。
仕事が終われば、家で家事と子育て。めまぐるしい毎日だけど、「子どもには自分の生き方を見てもらえたらなって思っています」と葵さん。
一生懸命、ひたむきに。ほっとするおいしさはそうして生まれます。
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おやつaoi
京都市北区紫竹下園生町38-10
木・金・土曜営業
11:00〜15:00(売り切れ次第終了)
(臨時休業あり、営業日はSNSで必ず確認を)
インスタグラム:@oyatsu.aoi
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。
インスタグラム:@miyanlife