たくさんの気づきがある場に
「草と本」のイベントはさまざま。この空間を見た、まわりの人たちがいろんな企画を持ちかけてくれました。
店舗を持たずに活動するイタリア料理「クッチーナ・サッチ」の料理会、毎週火曜、水曜の「みのり菓子」の出張喫茶、ホメオパシーの勉強会、煎茶道のお稽古……。
ダイモンさんも友人と共同企画で、ブックカバーをつくるワークショップを主宰。参加者が楽しげに絵を描くのを見て、感激したそうです。
「最初は、絵なんて長く描いてないから無理、私にはできない……なんて言っていた人たちが、描き始めると夢中! それがすごく嬉しくて、絵を描くワークショップをもっとやってみたいなって思っています。絵画教室なんてかしこまったものでなくて。道具を出して描くのってちょっと面倒だから、気楽に描ける場がつくれたら」
ここだからできることにこだわって
最近、私が参加したのは、「狩猟の営み・観て味わうお話し会」。
この連載でもご紹介した、オモテ市の中心メンバー「串揚げ万年青」主宰による、「食の循環」をテーマにしたイベントで、舞鶴の罠猟師「寒山拾得」清水祐輔さんのお話と、食事会。
山に罠を仕掛けて捕まえ、すぐさまその手でさばいた鹿と猪の肉を、美味しい料理で味わい、そのあと、狩猟の営みをうつした映像と共にお話をうかがいました。
映像の中にむごいシーンがあるのではないかと、少し身構えましたが、粛々と、手際良く、丁寧に、鹿をさばいていくシーンはとても清らかに見えて、驚きました。
いのちをいただいて、自分のいのちがある。あたまではわかっているつもりでも、なんとなくふれないようにしてきた部分。そこにスポットを当ててもらったようで、もっと向き合いたい、知りたい気持ちが湧いてきました。
鹿肉、猪肉の美味しさも、驚き。
狩猟と解体。どちらの技術も持ち合わせている人は少なく、美味しい肉として流通させるには、そこにおいても考えなければならない。田畑を荒らす厄介者。ただいのちを奪うのでなく、いのちをつなぐ、循環ができたなら。なんでもすぐ手に入る世の中、それがどこから来たかわからない都会暮らし。知る機会を得て、とても嬉しい会でした。
「私一人ではできないことが、人とつながることでできる。レンタルスペースではありますが、なんでもいいというのではなくて、ここだから出会えること、「草と本」らしさを大事にしていきたいなと思います」
女性のひとり時間を大事にしたくて
宿泊は1日1組限定。さらにこれからは、女性のひとり客にシフトしていきたいそう。
「京都にお住いの女性が「普段は仕事が忙しいから近場でゆっくりしたくて」ってお泊まりになることもあります。近くに美味しいお店がたくさんあって、テイクアウトやデリバリーのご案内もできるので、ここでのんびり過ごしてもらえたら。癒しや体を整えることに、私自身、興味があるので、リセットやリフレッシュになれば。京都にたくさんある宿の中から、ここを選んで来てくださるのは、話しが合う魅力的な方が多くて。お客さまと言葉を交わすのは、私にとっても楽しみです」
開業から1年、たくさんの刺激をもらって、いまはイラストを描きたい思いが高まっているそうです。
「自分が描いた絵も、だれかの癒しや喜びになれば嬉しい」と、ダイモンさん。喜んでもらえたら、自分も嬉しいし、癒される。人と人をつなぐ、町家からしあわせな循環が生まれています。
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草と本
京都市上京区水落町87-2
宿泊予約はHPから。
https://kusatohon.com/
イベントスケジュールについてはInstagramにて。インスタグラム:@kusatohon
ダイモンナオ
イラストレーター。雑誌・書籍・広告など、幅広く活躍。
http://www.daimon-nao.com/
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife