(『天然生活』2017年12月号掲載)
大切に長く、と思って買った台所道具、使いこなしていますか?
漆の椀や琺瑯の鍋、木の器……大切に長く、と思って買った台所道具、使いこなしていますか?
「土鍋にひびが入った」「鉄のフライパンが錆びた」など、いつの間にか台所道具のトラブルを経験する人も多いようです。
そこで、台所道具に造詣が深く、イベントやワークショップを多く開催する日野明子さんに、道具とのつきあい方について伺いました。
「道具のお手入れについて質問されたとき、まずお伝えするのは、“毎日使うのが一番のお手入れ”ということです。大切だから、といって奥にしまい込むと、かえってカビが生えたり、錆びついたりする原因になるんです」
使って洗って乾かして、また使って。その繰り返しで、台所道具は使い手の個性に沿ったものに育ち、自宅の台所の環境になじんでいくんですよ、と日野さん。
「土鍋のひびも、鉄びんの赤錆も、対処法がわかれば怖くない。自然素材のさまざまな変化を、面白がりながらよくみて、愛着のわく“自分の道具”にしてください」
道具を長く使うための心得6
1 身元がわかる道具を選ぶ
“道具の身元”となる、つくり手、窯元、工房などがわかれば、道具のお手入れに困ったときに、正しい対処法を導きやすい。素材から、つくり、仕上げまでの製造工程がクリアになり、それによってトラブル時の修理の方法が変わるため、役立つ情報に。
2 仕様書をあなどらない
道具に付いてくる仕様書。つい読み飛ばしてしまうけれど、道具にとって、素材、つくり、だめなことなど、必要最低限に知っておきたいことがわかりやすく書いてある大切なもの。買ったらまず、よく読んで。そして困ったときに読み返せるよう、保管して。
3 自宅の環境を把握しておく
住んでいる地域は湿気が多いか、からっとしているか。台所道具の収納場所は、湿気がこもりがちか、風通しがよいか、日は当たるか。道具にとって自宅の収納環境がどんな状態なのかを把握することが大切。湿気が気になったら、ときどき風を通して。
4 道具の基礎知識をもつ
木のお盆はしっかり水分をとばす、とはいえ、直射日光は反るのでNG……など、長く大切に使うためには、その道具ならではの基礎知識をもつことが大事。そのためには、道具に興味をもって。素材とともに構造を把握するなど、道具の状態をよくみることも大切。
5 素材同士の相性を知る
漆
100℃以上の湯、紫外線はNG
アルミ・杉
アルカリ性のものはNG
鉄・銅
水、塩分はNG
銀
硫黄はNG
「漆の器に直射日光が当たると白っぽく変色する」「銀製の器に目玉焼きをのせると変色する」など、相性が悪い素材同士を掛け合わせると、さまざまなトラブルの原因に。代表的な4つの素材ごとのNGな組み合わせを挙げたので、頭の片隅に留めておいて。これだけ覚えておけば、大きな失敗を減らすことができ、気が楽。
6 素材の経年変化を楽しむ
銅
黒っぽくなり、色が落ち着く
漆
使いづやが出る
木
飴色になる
粉引
貫入(かんにゅう)が生まれる
木皿、土鍋、鉄びんなど使いつづけたい道具の多くは、もともと、自然界で生まれた素材。それらは自宅の台所に行き着いても、形を変え、味わい深く育っていく。だから、「ひびが入ったから」「黒くなったから」買い替えるのではなく、経年変化まで存分に楽しんで。一生ものの道具は、使えば使うほど愛着がわく。
環境や時間の経過とともに変化する道具の面白さ
以前、ご友人が漆塗りのお椀を買うにあたって、日野さんの漆椀をしばらくレンタルしてみる、ということがあったそうです。
「半年ほどして友人も『同じものを買うわ』ということになり、漆椀を返してもらったんです。そうしたら、貸したときと比べて、明らかに白っぽくなっていて。もちろん友人は、熱湯を避け、使い終わりもしっかりと水分をふき取って使ってくれたので、う~ん、これはなんで? って思ったんです」
その後、友人に詳しく聞いてみると、食器の収納棚がとても日当たりのよい場所にあって、ああ、変色の原因は紫外線だったんだ、とわかったのだとか(白くなった漆椀は、参考資料として日野さんの手元に保管されているそう)。
実は、漆器にとって紫外線はNG要素。道具には、素材によって相性の悪いものが存在します。親から子へ、子から孫へ、のような暮らしの伝承が希薄になりがちないま、道具の当たり前を知る機会もだんだんと減ってきました。
扱い方が書かれた仕様書をよく読むこと、購入するときは、その道具に詳しいお店の人やつくり手によく話を聞くことが大事なんだと感じさせられるエピソードです。
また、日野さんはイベントなどで、「どうしたら新品のきれいな状態を保つことができますか」と聞かれることも多いのだとか。
「つくり手にいわせれば、『道具は使い込んでこそ味わいが育っていくものなのに、新品同様にしたらもったいない』。私も、新品がベストな状態とは思っていなくて、鉄びんについた渋い錆とか、アルミ鍋の鈍い輝きとかって、素敵だと思うんです。料理がしづらいとか、健康上危ないとか、そんなトラブルでなければ、そのままにしておくのもありだと思います。時間の経過とともにさまざまな表情を見せてくれるからこそ道具は楽しいということを、お伝えしたいですね」
〈監修/日野明子 取材・文/宇野津暢子 イラスト/今井夏子〉
日野明子(ひの・あきこ)
「スタジオ木瓜」代表。“ひとり問屋”として各地の工房や工場をめぐり、百貨店・店と作家・産地をつないでいる。生活用具の展示会やプロデュースにも携わる。著書に『台所道具を一生ものにする手入れ術』(誠文堂新光社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです