忘れられない、はじめてのおいしさ
はじめて食べたときの感動を、忘れることはありません。
崩れんばかり、やわらかくてなめらか。ひと匙ごと、夢見心地で食べました。
記憶に残るチーズケーキのつくり手は、大木健太さん。京都にお店ができる何年か前のこと。六甲にある器と暮らしの道具の店「MORIS」にていただいたのが、出会いです。
「MORIS」店主の森脇今日子さんは、大木健太さん、真奈美さん夫婦とイギリスで出会い、長年、家族ぐるみのお付き合いを続けていました。大木さんのお菓子に魅せられ、みんなに食べてほしくて、「MORIS」で喫茶イベントを開催。
「いずれお店が持てたら」、そう思っていた健太さんにとって、そのイベントは大きな糧になっていったと言います。みんなの「おいしい」の声に励まされて、感想を聞いてはブラッシュアップに生かして、お店のオープンを目指しました。
イギリスでお菓子づくりを身につけて
お菓子づくりを身につけたのは、イギリス・ロンドンにある、レストラン『St. JOHN セント・ジョン』。モダン・ブリティッシュ料理の先駆けといわれる店です。20歳で英国に渡り、カメラマンとなった健太さんですが、レストランの雰囲気、楽しそうに働くスタッフに惹かれて、30歳のとき転身。たまたま空きがあったのが、ペストリーでした。
「食べてみる?」と、初日に試食させてもらったのが、チーズケーキ。おいしさに感動し、「これだけは絶対に覚えよう!」と、心に決めたそうです。
10年勤めた後、日本で子育てできればと、帰国。イギリスと日本では、気候も、手に入る材料も、好みも違う。「セント・ジョン」での経験をベースに、歳月をかけて、試行錯誤を重ねて。ずっしりと大きく、とろりとやわらかな、Kewのチーズケーキが出来上がりました。
チーズケーキとドーナツに魅せられて
2019年、Kewがオープン。龍安寺参道商店街は、妻・真奈美さんの地元です。「街中からはずれたここまで来てくださるだろうか……」、そんな不安を口にしていた二人ですが、ここだけのおいしさが、たちまちお菓子好きを魅了しました。
チーズケーキもドーナツも、デリケートゆえ、イートインのみ。チーズケーキと並ぶ人気の、ドーナツも、夢のようなおいしさ。ふっくら生地の中に、たっぷりのカスタード。手にとって、頬張って、笑顔が続きます。
翌年には、お隣の物件が空いて、店舗を広げてリノベーション。席数も少し増えて、ゆったりと。コロナ禍となりましたが、予約制にシフトし、テイクアウトメニューも少し増えて、楽しみが広がりました。
「コロナ禍もあって、いまの予約スタイルになりましたが、かえってよかったかなと思います。わざわざ来ていただくからこそ、ゆっくり楽しんでいただきたくて」と、大木さん。
おいしいことはもとより、ホスピタリティも大事に。健太さんと真奈美さんの笑顔にも癒されます。
後編では、お菓子づくりのこと、いま思うことをうかがいます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Kew
京都府京都市右京区竜安寺五反田町15
TEL 075-406-0763
月・火・金休(事前予約制)
HPの予約受付フォームから1週間ごとに1週間前に受付開始。詳細はHP&SNSにて。
HP:https://www.kewkyoto.com/
インスタグラム:@kew_kyoto
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife