変わり続けることで、変わらないおいしさに
「いまも常に変わり続けているんです。これでいいのかなって、考える。レシピも、ホスピタリティもそうですね。ずっと変わらず、続けていることです」
いつも変わらない、おいしい定番。変わらないようで、変わり続けている。違うやり方を試してみたり、材料を見直したり……毎日の小さな積み重ね。
次、食べたとき、「やっぱりおいしい!」と思うのは、そんなたゆまぬ努力があるから。
ひさしぶりにいただいたチーズケーキは、しっとりとなめらか。まずはそのまま、それから、旬の果物と合わせて。最後、焼き色のついたはしっこをいただく。はじめと終わり、変わりゆくおいしさを考えながら、細やかに心を配って。
これまで、さまざまなフルーツは産地から取り寄せて、チーズケーキと組み合わせてきた、大木さん。神戸のフルーツショップ&パーラーベニマンで、果物のおいしさに目覚めたのがきっかけでした。
「チーズケーキと旬の果物を合わせると、思いもよらない、新しい美味しさが生まれる。選りすぐり果物を、食べごろにサーブされている、ベニマンさんで果物の力に、あらためて気づかせてもらいました。
実際に試してみないとわからないので、珍しいフルーツも取り寄せましたね。おかげで季節ごとの巡り合わせはだいぶん見えました。そろそろルバーブが出荷されるので、コンポートやジャムにするのが楽しみです」
果物はそれぞれの個性を生かして、そのままで添えたり、少しだけ手をかけたり。いちごは、軽く砂糖をまぶして、フレッシュなおいしさを際立たせて。アールグレーで香りづけした、定番のプルーンも美味。そのときどきの、巡り合わせも、訪れたときの楽しみです。
こんなの食べたい! と、自分が思うものを
オープンから1年、たまたまお隣の物件が空いて、店舗をリノベーション。いざ新たなスタートというタイミングで、コロナ禍に。イートインは事前予約制とし、テイクアウトのお菓子を少し増やしました。
「だけど、たぶん少し気負っていたのだと思います。つくるお菓子を広げた分、プレッシャーになってしまって。一時、崩したくないと思うあまり、チーズケーキを少し固くしてしまったんです。変化に気づいた常連さんの声で、我に返りました。
事前予約制になって、必ず数を確保しなければならないという、気負いもあったのだと思います。自分の良さって何だろう。作りたいお菓子って何だろう。あらためて、自分に立ち返りました」
気持ちを新たにした、3年目。自分がこんなの食べたい、そう思うものをつくろう。あっさりとして、もたれない。思わず笑顔になる、お菓子。
テイクアウトにお目見えした、りんごのタルトは、そんな気持ちの表れ。秋田の農園から取り寄せた、紅の夢。「シャリっとした食感を残したくて」、しっかり焼きしめたタルトに、スライスしたりんごを重ねて並べ、りんごジャム、バター、軽く砂糖をして焼きます。
口にすると、鮮やかなりんごの甘酸っぱさ。お茶を飲まずに、ずっとそのままでいたいほど、愛おしい余韻。さわやかでいて、とてもやさしい。つくりたいものが、はっきりと見えた、振り切れたお菓子。
「自分の身の丈に合う、お菓子づくりをしていきたいです。こわい顔をして必死でつくるのは違うなと思うから。自分らしく、無邪気に!」
また行きたい、そんなお店があるって、とてもしあわせなこと。ここにしかないお菓子を楽しみに、これからもずっと、わくわくはつづきます。
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Kew
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宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife