日本の“四季折々の自然の美しさ”や“伝統行事の楽しみ”を日々感じながら、心豊かに暮らすヒントを『神宮館高島暦』で長年にわたり主筆を務めた、暦法研究家・井上象英さんが伝えます。
3月5日 23時44分
二十四節気・啓蟄(けいちつ)
春の気配に誘われて
生き物たちが動き始めます
「啓」はひらく、「蟄」はこもるの意味。
「啓蟄」とは、土の中にもぐって冬眠していた虫や動物が、地上にはい出してくるころのこと。
春雷の音や春の気配を察して、生き物たちが動き始めます。
桃の花が開き、菜の花についた虫たちが蝶になり、情緒的な自然の恵みを目にすることのできる季節です。
ちなみに、手紙の冒頭に用いる挨拶の語、拝啓の「啓」も、謹んで申し上げ、これから文章を「開く」ということを意味します。
啓蟄の期間の七十二候
3月5日から3月9日ごろ
啓蟄初候・ 蟄虫啓戸[すごもりむしとをひらく]
晴れた日には気温が上がり、冬ごもりしていた小さな虫たちも、暖かな気配を感じて地表に出てくるころ。
生き物の生命力があちこちで感じられるようになります。
「啓戸」とは一歩前に進むという意味があり、何かが始まったり、何かを始めるのによいタイミングでもあります。
目標を立て、それに向かって気持ちを新たにするにはぴったりの時期です。
3月10日から3月14日ごろ
啓蟄次候・ 桃始笑[ももはじめてさく]
見渡す限りの野山に濃淡の桃の花が咲き始めるころ。
「桃源郷」という言葉が思い浮かび、心が踊ります。
「笑」とは花の開花する瞬間や風情を表しており、まさに春も本番です。
中国の春の代表花である桃は、結婚式やお祝い事などに欠かせない縁起のよい花とされています。
3月15日から3月20日ごろ
啓蟄末候・ 菜虫化蝶[なむしちょうとなる]
さなぎが美しい蝶に姿をかえるころ。
季節の移り変わりを情緒的に表現した候になります。
菜虫はアブラナ科の植物をすみかとする幼虫で、羽化した蝶はモンシロチョウを指しています。
ふわふわと舞うように飛ぶ様子は自由でつかみどころがありませんね。
* 二十四節気
四季の移り変わりをわかりやすくするために一年を24等分したのが二十四節気。もともとは2000年以上前の、古代中国の天体観測からつくられた暦法です。二至(冬至と夏至)二分(春分と秋分)を軸として、その中間に四立(立春・立夏・立秋・立冬)がつくられており、その間をさらに前半と後半に区切ることで二十四節気と称しています。
* 七十二候
七十二候とは、二十四節気を気候の変化でさらに細分化したもの。ひとつの節気を「初候」「次候」「末候」という三つの“候”に区分。約5日という細かい期間を、草花や鳥、虫などの様子で情緒的に言い表しています。
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*本記事は『365日、暮らしのこよみ』(学研プラス)からの抜粋です。
*二十四節気、七十二候の日付は2022年の暦要項(国立天文台発表)などをもとにしたものです。日付は年によってかわることがあります。
<イラスト/山本祐布子 取材・文/野々瀬広美>
井上象英(いのうえ・しょうえい)
暦作家、暦法研究家、神道教師、東北福祉大学特任講師。100年以上の歴史を持ち、日本一の発行部数の『神宮館高島暦』の主筆を長年務め、現在は、企業・各種団体などで講演活動、神社暦や新聞雑誌等の執筆活動など、多方面で活躍。著書に『365日、暮らしのこよみ』(学研プラス)、『こよみが導く2021年井上象英の幸せをつかむ方法』(神宮館)など多数。
『神宮館高島暦』で長年にわたり主筆を務めた暦法研究家の井上象英さん。その知識は、神道学、九星気学、論語、易経、心理学にも及びます。この本は暦を軸に、日本の伝統行事や四季折々の自然の美しさや楽しみ方を誰にでもわかる、やさしい口調で語っています。1月1日から12月31日まで、日本の四季や文化伝統を日々感じながら、心豊かに暮らすヒントが満載です。