(『91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』より)
食材の無駄を出さず、おいしい。見た目もきれいに仕上げる知恵と工夫
食べ物は、全部天からの授かり物です。すべて上手に生かし、きちんと成仏させないといけません。
大根やニンジンの皮は、干してきんぴらにすれば美味しいし、ネギの青いところは、フードプロセッサーでネギ味噌にすれば、使い勝手もいろいろ広がります。魚なら、頭から骨から皮から内臓まですべて使い切って、美味しく食べるにはどうしたらいいか考えます。
優れた料理人とは、そういう始末のいい料理ができる人のことです。残り物でも、頭を使えば立派な料理になります。
捨てるところをできる限り少なくし、無駄を出さない。しかも、食べて美味しく、見た目もきれいに仕上げる知恵と工夫があってこそ、プロの料理人といえるのではないでしょうか。
高級料亭で、お客様にお出しできない場合は、まかない料理の材料として役立てることができます。若い料理人の勉強にもなりますし、思いがけないアイデアにつながるかもしれません。
魚好きのお客様は、お刺身にした残りのアラや海老の頭などを意外に好まれる傾向があり、アラをちり蒸しにしたり、海老の頭を味噌汁にしたりすると喜ばれます。
海老のヒゲやワタに白味噌を少し加え、フードプロセッサーにかけると、すごく美味しい海老味噌が出来上がるんですよ。焼いた小芋や小さく切ってトーストしたパンにのせて食べると絶品です。
肉や魚の内臓、鶏の皮などを使った料理も、お好きな方が多いですね。
「銀座ろくさん亭」で人気があるのは、コラーゲンポーク。豚足を高圧釜(圧力鍋のこと)で軟らかくして固めた物をひと口サイズに切ってお出しするのですが、コリコリした食感が何ともいえない美味しさです。
見た目も白くて別物のようで、豚足と説明しなければわからないくらいですから、女性の方にも食べやすい一品として喜ばれています。
サンマのワタ焼きも、人気があります。ワタは苦いと敬遠する方も多いのですが、ワタをみりん醬油で煮て、とろとろになったら裏ごしし、卵黄と合わせたものをサンマに塗って焼くと美味しいんです。
冷蔵庫をすっきりさせると、気分も軽やか
家でよく料理するようになってから、素材の持ち味を生かし、いかにして全部使い切るか、前以上に考えるようになりました。特に高圧釜をよく使いますね。
調理時間が短くて済むし、だしが少なくても軟らかくきれいに仕上がり、食べてみると従来のやり方より美味しいくらいです。YouTubeの番組でも、積極的に利用しています。
僕は、冷蔵庫に少しずつ残った食材を上手に生かした料理を考え出すのが得意です。
ハムの残りをあられに切ってマヨネーズと絡めた‟ハムネーズ”をつくり、オリーブオイルで炒めたグリーンアスパラにのせるなど工夫をするのが楽しくてね。冷蔵庫掃除にもなります。
冷凍の鰻を凍ったまま薄くスライスしてグリーンサラダに散らし、ポン酢とマヨネーズをベースにした‟マヨポンドレッシング”をかけて食べる鰻サラダは、最近考案してYouTubeでも紹介しました。冷凍鰻のシャキシャキした食感が美味しく、新鮮な印象でした。
半端物を全部集めた‟何でも味噌汁”も、おすすめです。仙台味噌や白味噌など、少しずつ残っている味噌をいろいろ使い、オレンジジュースやリンゴジュースの残りなども足したら、驚くほど美味しくなります。
具材も、冷蔵庫に残っている物を何でも入れてしまいましょう。だまされたと思って、一度つくってみてください。
始末のいい料理で冷蔵庫をすっきりさせると、気分も軽やかになるものです。
本記事は『料理人・道場六三郎/91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』(KADOKAWA)からの抜粋です
〈イラスト / 川原瑞丸〉
道場六三郎(みちば ろくさぶろう)
1931年1月3日、石川県に生まれる。91歳。和食料理人。日本料理の世界に革命を起こし、テレビ番組「料理の鉄人」では斬新な発想で視聴者を釘付けに。1971年に開店した「銀座ろくさん亭」で、今も調理場に立つ。生き方のエッセイ『料理人・道場六三郎/91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』(KADOKAWA)を発売。
YouTubeチャンネル:鉄人の台所
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「91歳で現役で活躍する「和の鉄人」道場六三郎さんの生き方エッセイ。あまり悩まないことが、健康の秘けつ。一喜一憂しない。ストレスがない。人生、なるようになるさ。明るく前向きに生きるヒントが詰まった一冊です。