(『天然生活』2020年12月号掲載)
早川ユミさんの冬支度
布仕事を火のかたわらで。すこやかに過ごす、暖かな冬
「夏は雨のたびに草が生えて、毎日畑仕事で手いっぱい。白菜や大根など、秋のうちにいろんな冬野菜の種をまきますが、夏に比べたら冬の畑はゆっくり。そのぶん、ものづくりの時間ができますね」
早川ユミさんは畑仕事しながらアジアを旅して出合った布で、服づくりをしています。
高知の山間に、陶芸家の夫・小野哲平さんと移り住んで22年。陶芸家である長男、次男、お弟子さんたちと、にぎやかな日々を送っています。
「めまぐるしい夏と違って、冬は時間が止まったみたい。ふだんはなかなか手が回らない布の仕分けや道具の手入れをしたり、たくさん読書して次につくる本の中身を練ったり、冬は思索のときです」
標高450mのこの辺りは、麓よりも2℃ほど冷え込むそう。
心地よく冬ごもりするために、みんなで力を合わせて取りかかるのが、薪仕事。焼きもののための薪窯の松、薪ストーブ用の広葉樹、お風呂用の杉と、3種の薪が工房のそばにどっさりと積まれています。
「薪はしっかり乾かさないとちゃんと燃えません。手に入れてすぐは使いものにならないので、冬を迎える前に十分蓄えられていると安心します。1日に何度も薪を運ぶのは重労働ですが、そうして体を動かし、汗をかいてきたおかげで、丈夫になれた気がします」
早川ユミさんの冬支度
布のかけらでラグをつくる
着古したサリーを重ねて縫い合わせるインドのカンタにならって、冬時間に活躍するラグや膝かけづくり。
服づくりで余った布のかけらはテープ状に縫い合わせておき、かごいっぱいにストック。
「もんぺのベルトにしたり、スカートの裾裏にぐるっと縫い付けたり、テープ状にしておくとワンポイントに使いやすいんです」
柄合わせを楽しみながら、生地を大切に生かしきり、愛着のわくものに。
早川ユミさんの冬支度
包丁を研いで、道具を手入れ
手元にあるほとんどが鋼の包丁。時間ができる冬の間に砥石で研いで手入れしておく。
「ふだんは小出刃と、小回りが利く細い包丁の2本で大抵のことはやっています。
鶏肉をさばいたり、鹿肉の筋を取ったり、刃先が丸いと調理しづらいので切れ味よく研いでおきます」
3本の栗むき包丁は義父・小野セツローさんからの贈り物。東大寺の釘を手がけた鍛治職人、白鷹さんによるもの。
早川ユミさんの冬支度
お風呂や暖炉にくべる、たくさんの薪を準備
「火を焚くのが楽しみ」という、ユミさん。冬の間から次のシーズンの薪を調達し、日数をかけて乾燥させる。
「夫の弟子にとっても薪窯で火を扱ういい経験になります。女性にも体験してほしくて」、ユミさんの弟子・まりさん、沙織さんも薪仕事を手伝う。
薪で焚いたお風呂の中で1時間ほど読書するのがユミさんの冬の日課。
「本を読みながらゆっくり半身浴。毎日続けると汗が出やすい体になります」
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〈撮影/河上展儀 取材・文/宮下亜紀〉
早川ユミ(はやかわ・ゆみ)
布作家。高知を拠点に、畑や暮らし、いろんな人の心に、種をまく。『早川ユミのちくちく服つくり』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです