(『天然生活』2021年3月号掲載)
小さなことからひとつずつ。里山の循環する暮らし
「ブロッコリー、そら豆、玉ねぎ、白菜。この果樹はみかん、あんず、梅。初めてオリーブの実がなってひとびんほど塩漬けができました。少しだけどうれしくて」
まるで子どものことのように畑のことを話す、早川ユミさん。畑仕事や服づくりをしながら夫で陶芸家の小野哲平さんや弟子たちと高知の山間で暮らしています。
「捨てるのがもったいなくてなんでも使い回す暮らしをしています。野菜屑やお米のもみで堆肥をつくったり、布のかけらをちくちくつなげたり、畑も服づくりもぐるぐる循環しているんです」
食事のたびに出る野菜屑はコンポストへ。ジュースのしぼりかすは鶏の餌になり、おいしい卵が産まれ、鶏糞は堆肥になります。
「近くのしいたけ農園から役目を終えた菌床をもらって堆肥にしたら畑の土がふかふかになって。里いもの収穫は力仕事だったのにするっと土から抜けるようになりました。菌床に残った菌がいい働きをしてくれている。ヨーグルトやキムチを食べると腸が元気になるのと通じますね。土は私たちの暮らしのまんなかにある。土に触れていると感動があります」
土の恵みを土に還す、それは脈々と続く自然のサイクル。けれどそこにひずみができています。
「ほうれんそうを買うとよく紫色のテープで束ねられていますよね。以前、コンポストに紛れ込んで、土に還らずそのまま残っているのを見つけて、ハッとしました。捨てると気分がスッキリするけれど、捨てられたものがどこにいくか考えるとスッキリしない。ものの行き着く先まで考える、それが本当の美しい暮らしではないかなって思います」
ユミさんにとってぐるぐる循環させることは日々の楽しみ。ポケットを付けて、柿渋で染め直して、捨ててしまわず、また使えるように新たな息吹を与えます。
「いろんなものを寄せ集めて別の用途のものにつくり直すブリコラージュって、すごく楽しい。自分の手でつくり直すと自分のものになり、思いがけないものができる。つくりのよい古いものはたくさんの学びをくれる。つくり直すことは喜びです」
楽しみながら手を動かせば、そこから循環が生まれます。
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早川ユミ(はやかわ・ゆみ)
布作家。高知を拠点に畑や暮らし、人々の心に種をまく。NHKワールドの「ゼロ・ウェイスト特集」や、Eテレ「早川ユミの暮らしごと」などの番組に取り上げられている。近著『くらしがしごと 土着のフォークロア』(扶桑社)も好評。
〈撮影/河上展儀 取材・文/宮下亜紀〉
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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高知の山間で暮らす、布作家の早川ユミさん。畑を耕し、果樹を栽培したり日本みつばちを育てたり、自然ととも暮らしています。
2022年のコロナの時代を、どう生きていくべきか。私たちは大きな時代の変化のなかを生きています。
自分で食べるものや着るものは自分の手でつくり、暮らしを自給自足に。高知の山のうえから、「くらし」と「しごと」について深く考察し、分かりやすいことばで綴る1冊。
高知の里山の暮らしを記録した美しい写真と、躍動感あふれるイラストとともにお楽しみください。