(『天然生活』2021年6月号掲載)
手を動かしながら、土に還るもので収納を
大分県杵築(きつき)市山香町にある「糧(かて)の家」。
築90年近い古民家を改装したこの家は、古楽器製作家の松本未來さんと妻の裕美さんの住まいであると同時に、全国から人が訪れる農家民泊でもあります。
「家を購入したときは前の住人の家具や日用品が残されていた状態だったので、その片づけから始めました。土に還せないプラスチック製のものが大量にあって、捨てる作業が本当に大変で。そんな体験を経て、『自分たちはものを吟味してすっきりと暮らそう』『なるべく捨てないで使えるものを選ぼう』と思ったんです」
そう話す裕美さん。家具から日用品、調味料に至るまで、新しいものを買うときは夫婦でよく話し合ってから決めているといいます。
夫の未來さんを主体に、ほぼ自分たちの手で行なったという改装も、解体で出た廃材をできるだけ活用。いまもなお、必要に応じて家に手を加えたり、道具を手づくりしたり。それらが日々の整理整頓に役立っています。
「たとえば私は書類の整理が苦手。でも夫が壊れた箪笥の引き出しを活用した書類入れをつくってくれて。出し入れするのが楽しくなり、整理も前より苦にならなくなりました。ものに愛情を注げば、それにまつわる動作にも愛情を注げる、というのが夫の考えなんです」
松本家の整理整頓術
身近にあるものを工夫して使う
整理整頓のための道具を買い足すのではなく、身近にあるもので代用している松本さん。古いものが自由な発想で新たな道具に生まれ変わると、愛着もひとしおです。
簞笥の引き出しを書類入れに
請求書などの書類は、夫婦ともに過ごす時間が長い台所に。書類整理が苦手な裕美さんのために未來さんが古い簞笥の引き出しを一つ使って書類入れをつくってくれた。
「夫は私の片づけのモチベーションを上げるのが上手なんです」
持ち運べるかごが大活躍
赤ちゃんのオムツは持ち手がついたカゴに入れている。
「持ち歩けるし、掃除のときにもひょいっと持ち上げられて便利」
おくるみなどを入れている縦長のかごは大分県のかご作家、中村桃子さん作。妹夫婦からの贈り物。
スツールとざるで野菜置き場を
ステップスツールは以前、旅行中に入った古道具店で買ったもの。ここにざるを置いて、野菜置き場にしている。
「いまはこうやって使っていますが、スツールとして使うことも。暮らしに合わせて自由に使えればと思っています」
納屋で見つけた道具をフックに
調理道具が掛けられたフック付きの細いバーは、実は納屋で見つけた古い道具。
「昔の住人が納屋で蚕を飼っていたようで、そのための道具かもしれません」
使われなくなっていたものが、夫婦のアイデアで新たなツールとして活躍中。
床にはものを置かず、すっきりと
朝、広い家じゅうを掃いたあと、ふき掃除をするのが裕美さんの日課。床にものがないことは、効率よく掃除するためには不可欠です。
棚板をDIYで取り付けて、本や雑貨を並べる
壁に棚板として取り付けたのは、古民家を改装した際に残った古い木材。
ここに本や細々とした雑貨を並べているので、床の上には何もなく、娘の羽根ちゃんが動きまわっても安心。未來さんの製作した古楽器も壁に飾られている。
袋に収納して、吊り下げる技を多用
「古い日本家屋は木が使われている部分が多いので、いろいろな場所に釘を打てるんです」
このメリットを生かし、よく使うものは袋に入れてあちこちの壁や柱に吊り下げている。
台所の壁に吊るした袋の中には、着なくなった服を切ってつくったウエスを。
「台所ではお湯が出ないので、器を洗う前に油をふき取っています」
薪ストーブの掃除道具は、近い場所の壁に掛ける
薪ストーブの灰を掃除するためのほうきや軍手などは、すぐ近くの壁に吊るして。
使う場所の近くに置くことで、すぐ元に戻せてすっきりを保てる。
整理整頓の楽する工夫
テレビ台をなくしてすっきり。床掃除も簡単に
育児をしながら家で映画などを観る時間が増えた裕美さんのため、以前はテレビ台にのせていたテレビを未來さんがDIYで居間の壁に埋め込んだ。
床の上がさらにすっきりして、掃除も楽に。
〈撮影/大森今日子 取材・文/嶌 陽子〉
松本未來(まつもと・みらい)、裕美(ひろみ)
大分県杵築市にある、築80年の母屋と納屋を改装した農家民泊「糧の家」を営む。
webサイト:https://www.katenoie.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです