(『天然生活』2021年6月号掲載)
本や音楽は、人生の相棒。だから“捨てない片づけ”に
兵庫県・宝塚の高台にある閑静な住宅街で、ともに「アトリエナルセ」を運営する夫の早川卓馬さんと、10歳になる息子のハヤオ君と暮らす成瀬文子さん。
成瀬さんの自宅でひときわ、目を引くのは、1階の階段下や2階リビングにもある、大きなつくり付けの本棚。
家族3人、全員が本好きで、そのときどきでいろいろなブームが訪れるため、蔵書は増える一方。ところが意外にも定期的に処分したりはせず“捨てない収納”を心がけているそう。
「この家を建てるときに、ものの少ない洗練された空間にしたくて、本をかなり処分したのですが、あとでめちゃくちゃ後悔したんです。思春期や青春時代に自分が好きだったもの、影響を受けたものは、時が過ぎても、やっぱり手元に置いておきたいな」と早川さん。
「処分した本は、結局、いくつか買い戻しました。いまの時代と逆行しているんですけど、捨てる際に、いるものといらないものを選択しますよね。その作業に時間をとられるし、精神的にも負担になってしまうんです」と成瀬さんも微笑みます。
たくさんの本に囲まれながらも、圧迫感なく心地よい空間をつくり出しているのは、詰め込まずに一冊ずつ、ていねいに並べられているから。
なかでも食事をしたり、くつろいだりするリビングの本棚には、本と一緒に小さなオブジェや思い出の写真、中央のいい場所にはハヤオ君の版画作品も飾られ、家族の会話もはずみそうです。
音楽についても同じように、90年代に一世を風靡した8センチCDを中古専門店で買い直し、最新のプレーヤーでは再生できないため、古いプレーヤーも捨てずに2台体制にしているそう。
成瀬さん、早川さんにとって本や音楽は、家族のように大切な人生の相棒。断捨離やミニマリストといった言葉が新しい生き方として注目される世の中で、現在の自分を形づくってきたものを切り捨てることなく、ずっと愛し続ける姿勢にハッとさせられます。
成瀬文子さんの整理整頓術
本は捨てずに、置き場所や置き方を工夫
個々のプライベートスペースだけでなく、共用スペースにも本棚を。家族とはもちろん、小さなお客さまともシェアできるよう工夫。
リビングの本棚にはアートや雑貨をあしらう
水まわりの目隠しも兼ねた本棚には、息子・ハヤオ君の版画作品や、思い出の写真、旅先で買った小物なども一緒に飾り、くつろげる雰囲気に。
絵本コーナーをつくることで、子どもたちと“好き”をシェア
階段下にある共用の本棚には、雑誌やコミックス、絵本を収納。左端は友人が子どもを連れてきたときに楽しめるよう、絵本コーナーに。
上の段に月齢の低い赤ちゃん向けを、下に行くほど、大人でも楽しめるものを並べている。
本棚に入りきらない本は自分流の並べ方を楽しむ
早川さんの本棚からあふれた本は、面置きにしたり、背をそろえて横置きにも。
何の本があるのかを把握できればOKとし、置き方はかなり個性的。
特別な作家さんの本は、神棚的な扱いで特等席へ
敬愛するおーなり由子さんの本は、直筆のお手紙と目に入りやすい場所に。
アンティークの糸巻きや、弟の画家・成瀬遼さんの小品を一緒に飾って。
子どもの“好き”を尊重し、卒業したものも捨てない
ハヤオ君の本も、本人がいらないというまで処分はしない。思い出のあるドラえもんのおもちゃや、増え続ける『コロコロコミックス』は本棚上に。
整理整頓の楽する工夫
“好き”をずっと楽しむため、古いプレーヤーも捨てない
動画サイトやサブスクの時代に入っても、8センチCDを再生するために置いてある古いプレーヤー。
90年代のヒット曲が多い。ジャケットデザインなども含めて、色あせない魅力が。
〈撮影/わたなべよしこ 取材・文/野崎 泉、鈴木理恵(TRYOUT)〉
成瀬文子(なるせ・あやこ)
「atelier naruse(アトリエナルセ)」デザイナー。著書に『アトリエナルセの服』(文化出版局)がある。
webサイト:https://atelier-naruse.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです