• 歳を重ねても、チャレンジ精神を忘れずに。芸能界から45歳で早稲田大学へ入学、現在も同大学の研究室に所属しながら、東京大学で抗老化学の研究を行う、俳優、研究者のいとうまい子さんにお話を伺いました。
    (『天然生活』2022年11月号掲載)

    社会に恩返ししたいという夢に向かって、邁進中

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    1980年代に歌手デビュー、俳優として活躍中のいとうまい子さんは、研究者の顔もお持ちです。

    「芸能生活25周年を迎えた40代、社会に対して何か恩返しがしたいと考えるようになりましたが、できることが思い浮かばず。大学に行けば、その土台が見つかるかもと思い、何気なく夫に相談したところ、背中を押してくれたんです」

    関心があった予防医学を学び、自分の体を守ることの大切さを伝えたいと、早稲田大学の通信教育課程を受験。面接では『芸能人はすぐに辞める』といわれたそうですが、『目的があるから辞めません!』とアピールし、合格。

    「通信教育とはいえ、仕事との両立は大変でした。テスト期間は徹夜で勉強して昼間は撮影をしていたら、疲労から帯状疱疹になってしまったこともありました」

    くじけそうになるたび、「何のために勉強しているの?」と自問。恩返しがしたいという夢があったから、なんとかやりとげることができたといいます。

    画像: 研究テーマは抗老化学。赤ワインに含まれるレスべラトロールという成分はカロリー制限したと細胞に錯覚させる作用があり、ほかの食品にもないか探している

    研究テーマは抗老化学。赤ワインに含まれるレスべラトロールという成分はカロリー制限したと細胞に錯覚させる作用があり、ほかの食品にもないか探している

    道が閉ざされても夢に向かって、前進

    予防医学のゼミを取ろうとしたものの、教授の退官に伴いゼミがなくなることがわかりました。その状況を知った20歳の同級生から、ロボット工学をすすめられます。

    「芸能界で長く仕事をするなかで、流されずに生きなくては、と頑なになっていたところがありました。でも摩擦や失敗もあったので、大学生活ではアドバイスには素直に従ってみようと決めていました」

    画像: 芸能の仕事もマイペースに継続。名古屋のスタジオから東京の研究室に飛んで帰る日も

    芸能の仕事もマイペースに継続。名古屋のスタジオから東京の研究室に飛んで帰る日も

    ゼミの面接では予防医学とロボットを融合し、化学変化を起こしたいと語ったものの、何をすべきか途方に暮れていたとき、きっかけが訪れます。

    生徒の中にいた四国の整形外科医から、高齢者のロコモティブシンドローム(運動機能が低下し、寝たきりなどになってしまうこと)が深刻という話を聞き、ロボットで予防できないかと考えたのです。

    足腰を鍛えるために正しいスクワットを検出するロボットを開発したところ、ある企業から「研究を続けてみては」と。卒業後の進路は考えていませんでしたが、まだ恩返しできるほどには至っていないと感じていたこともあり、教授に相談すると、推薦で大学院に進めることに。

    「午前中に名古屋で収録し、新幹線に飛び乗って埼玉のキャンパスに通う日も。忙しかったけれど、学べば学ぶほど新しい発見があり、楽しくて仕方がありませんでした」

    順調に研究を続け、博士課程に進んで学びを深めたいと思いましたが、博士課程にはロボット工学がありません。またしても道が閉ざされ、どうしたものかと考えたとき、抗老化学の講義を2年間受けていたことを思い出しました。

    「たとえばアメリカの大学で行われたアカゲザルの研究では、一頭は食べたいだけ食べさせ、もう一頭はカロリー制限をしたところ、後者の健康寿命が延びたんです。このような研究で、社会に恩返しできないかと考えました」

    ロボット工学と抗老化学はまったく違う分野ですが、面接では「できるはずがない」という教授の質問に次々と正答し、無事、博士課程に進むことができました。6年間の博士課程を終え、現在は早稲田大学の研究室に残り、東京大学と共同で研究しています。

    画像: 共同研究している東大の研究室に週に3〜5日は通う。写真は、気圧や空調が調整されたクリーンな空間で、細胞を培養しているところ

    共同研究している東大の研究室に週に3〜5日は通う。写真は、気圧や空調が調整されたクリーンな空間で、細胞を培養しているところ

    「壁が立ちはだかっても、恩返しという夢に向かって自分を鼓舞しながら進んだら、想像もしなかった人生が待っていました」

    夢というと大きなことを考えがちですが、子どものころに好きだったことをヒントにしては、と。

    「夫はプラモデルをつくることが好きだったそうで、どんどんつくればと話したら、いまでは何時間でも没頭していられるとすごく楽しそうです。何か夢中になれることがあると人は生き生きするし、幸せですよね。私も心身ともに健康であるためのメッセージを届けられるよう、一歩ずつ楽しみながら進んでいきたいと思っています」

    人生の転機

    社会に恩返ししたいという夢の実現に向け、踏み出した大学入学という一歩から、想像もしなかった道に。

    45歳で早稲田大学に入学

    画像: 45歳で早稲田大学に入学

    大学時代に思わぬことからロボット工学のゼミを取り、進むことになった修士課程の修了式。「ゼミの仲間とはいまでもラインのグループでつながっていて、『まいまいさん、記事が出てたよ』なんて、リンクを送ってくれることもあります。分け隔てなく接してくれて、ありがたいですね」

    54歳で高齢者支援ロボットを開発

    画像: 54歳で高齢者支援ロボットを開発

    修士課程では、大学時代に声をかけてくれた企業と共同で、ロボット「ロコピョン」を開発。博士課程では抗老化学に進んだ。予防医学、ロコモティブシンドロームから筋肉など体のつくり、遺伝子と学びを進めてきて、総合的に健康についてのメッセージを届けられる日も遠くないと思っているそう

    いとうまい子さんの年表

    1983年(18歳)芸能界デビュー、タレントとして活躍
    2010年(45歳)早稲田大学人間科学部eスクール入学
    2014年(49歳)同大学大学院修士課程進学、ロボット工学を専攻
    2016年(51歳)同大学大学院博士課程進学、抗老化学を専攻
    2019年(54歳)高齢者のスクワット支援ロボット「ロコピョン」を企業と共同開発
    2022年(58歳)現在、芸能活動と平行して、早稲田大学に所属しながら、東京大学で抗老化学の研究を行っている

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    〈写真提供/いとうまい子さん 取材・文/長谷川未緒〉

    いとうまい子(いとう・まいこ)
    1982年『ミスマガジン』コンテストの初代グランプリを受賞し、歌手デビュー。多方面で活躍する一方で、45歳で早稲田大学に進学し、大学院ではロボット工学、抗老化学を専攻。現在も同大学の研究室に在籍し、抗老化学の研究を行う。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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