(『天然生活』2020年9月号掲載)
いまも手元に残るのは、飾りけのない道具
日々、魅力的な人に会い、暮らしぶりを取材する。一田さんの仕事柄、そこで目にするあれこれは、どれも素敵なものばかり。台所道具もまた、例外ではありません。
「実は、道具そのものより、その人が使う風景込みでひかれます。さらに、自分の暮らしと接点があり、その道具がいまの暮らしを少しでも変える予感があるなら、それは手に入れて後悔しない道具」
新しいものを迎えるとき、芯にあるのは“自分軸”。扱いが楽なこと、場所を取らないこと。それらは、淡々と料理をし、もの選びの失敗を重ねることで、ようやく見えた自分なりの道具の条件。
たとえば、20年選手の鍋。アルミ素材で扱いやすく、何より、大根を煮るのが上手。ほどよく水分が飛び、やわらかいのに絶妙な歯ざわり。実は、“自分軸”が定まるずっと前に手に入れたものだけれど、途中、ほかの鍋にも目移りしたけれど、まるで振り出しのように、ここに戻ってきていました。
「和食をつくることが多い私にとっては、実に最適な鍋だったんですね。そして、不思議と飽きない」
気づけば、長くそばにある道具は、どれもごくシンプルなものでした。
「個性が強すぎないことが、いいのでしょうね。きっとそれこそが、生活にずっと寄り添ってくれる存在になった理由なのだと思います」
有次のやっとこ鍋
20年ほど前、雑誌で見かけたのがきっかけ。京都の「有次」で店員さんにアドバイスをもらいながらサイズを選び、購入。
「落ちなくなってしまった汚れや、ゆがんでいる部分もありますね。ほぼ毎日、何かしら使っているので、年季が入ってきました。シンプルな分、壊れることもないし、ずっと使いつづけると思います」
使ううちに、「そういえば、ふたがない」と気づき、落としぶた用の木ぶたを買い足したそう。
アルミのバット
ステンレスよりさらに軽いため、取り回しが楽なアルミのバット。素材の特質としてサビが出にくいのも、日々使うには便利です。
「下ごしらえにボウルを使う人も多いと思いますが、私はバットで。作業スペースが限られているので、交互にすれば何段も重ねられるのが助かるんですよ。ある程度数をそろえたいものは、リーズナブルであることも条件のひとつになりますね」
ジップロックのスクリューロック
料理家の野口真紀さんを取材したときに知って、さっそく取り入れたのがこちら。
「それまで、パチンと閉めるタイプの保存容器を使っていたのですが、液体は気をつけないと、冷凍庫に入れる瞬間にちょっとずれただけでもれてしまうのが悩みで。これは液体も安心」
まとめて取っただしを冷凍するときも重宝しています。
貝印の計量スプーン
フードスタイリストの飯島奈美さんの台所で見て、その優秀さに感激したというアイテム。
「なんでいままでなかったんだろう? と目からウロコというか。本当にちょっとしたことですが、計量スプーンを台に置けるだけでこんなに料理がスムーズにできるなんて」
柄が微妙に斜めに付いているため、カトラリー立てには収納しづらいのがたまにきずだけれど、それをもって余りある便利さ。
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〈撮影/山川修一 取材・文/福山雅美〉
一田憲子(いちだ・のりこ)
1964年京都府生まれ兵庫県育ち。編集者・ライター。OLを経て編集プロダクションへ転職後、フリーライターに。暮らしまわりを中心に、書籍・雑誌で執筆。独自の視点による取材・記事が人気を得ている。『暮らしのおへそ』(主婦と生活社)では編集ディレクターとして企画・編集に携わる。著書多数。近著に『人生後半、上手にくだる』(小学館クリエイティブ)、『もっと早く言ってよ。50代の私から20代の私に伝えたいこと』(扶桑社)がある。
http://ichidanoriko.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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50代になったイチダさんが「はたとわかった」これからの人生を豊かにする40のことを紹介。
「この本では、50代の今の私が『わかった』ことを、20代だった私に語りかける形で綴ってみました。私と同世代の方には『そうそう!』と共感していただけるかもしれません。20代、30代のまだ惑いの中にいる方には、不安や悩みを少し和らげるちょっとしたヒントになるかもしれません。」(一田憲子さん はじめにより)