(『修道院の煮込み スペインバスクと北の地方から』より)
修道院の台所
お祈りや労働の間に、朝食、昼食、夕食の1日3回の食事があります。
料理をつくるのは、その日の当番の修道女。修道院によってローテーションの組み方、担当人数などは違うとしても、ほとんどの場合、担当がその日のメニューを決めてつくるようです。
メニューはその時々にある材料を使って考えるのがほとんどで、先に材料を決めて用意するのは、特別な日やお祝いの日。毎日の献立は、庭で採れた野菜やくだもの、いただいた食材、ストックしてあるものなどを考慮しながら決めていきます。
当番は、その日の労働の時間を使って台所で料理にとりかかります。白いタイルを基本にした台所には、ステンレスシンク、ガス台、調理台、オーブンが置かれ、お互いが働きやすいよう常に整頓され、清潔が保たれています。
感心してしまうのは、無駄なものがないこと。長い間、代々使っていたらどんどんと物がふえそうなものなのですが、逆に必要なものだけが残っているようです。まさにミニマリストのお手本ですね。
修道女たちがつくる「おふくろの味」
その昔中世の頃、修道院はヨーロッパの文化、社会に大きな貢献をしていました。学校や病院の役割をしていた修道院ですが、書物や学問だけではなく、料理の研究にも余念がありませんでした。
菜園、果樹園、薬園、養鶏場などを管理しながら自給自足をし、共に暮らす大勢の修道女たちに、地域の信者たちに、いかに体によいおいしい料理を提供できるか、日々試行錯誤を続けていたのです。
スペインでは、多くの伝統料理が修道院で生まれました。その点に敬意を表し、修道女たちは「おいしい料理をつくる人」の代名詞となり、今でも「おふくろの味」を象徴する存在として一目置かれています。
本記事は『修道院の煮込み スペインバスクと北の地方から』(主婦と生活社)からの抜粋です
〈撮影/丸山久美(現地写真)〉
丸山久美(まるやま・くみ)
スペイン家庭料理研究家。アメリカ留学後、ツアーコンダクターとして世界各地をまわり、マドリッドに14年在住。現地の料理教室に通いながら家庭料理をベースとしたスペイン料理を習得し、修道院をめぐって修道女たちから料理を学ぶ。帰国後は、テレビや雑誌などでスペイン料理を軸にした料理を提案。2006 年から東京・杉並区の自宅でスペイン家庭料理教室「mi mesa」主宰。著書に『バスクの修道女 日々の献立』(グラフィック社)、『修道院のお菓子』(扶桑社)など。2023年10月に『修道院の煮込み スペインバスクと北の地方から』(主婦と生活社)を発売。
webサイト:https://k-maruyama.com
インスタグラム:@maruyama_kumi
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スペイン家庭料理研究家・丸山久美さんが、スペインバスクおよび北部の修道院を訪ねて修道女から教わったレシピと、文献からのレシピをまとめた1冊。煮込み料理を中心とした1皿目、2皿目、デザートの献立形式での提案と、単品の煮込み料理を数多くご紹介しています。このほか、修道院の一日の過ごし方や、修道院の台所や食堂、器についての解説と、現地で撮影した写真もたっぷり掲載しています。