(『修道院の煮込み スペインバスクと北の地方から』より)
修道院と動物たち
修道院では、さまざまな動物が飼われています。猫が居ついてしまうこともあれば、迷い込んできた犬やトルノ(回転棚)に置かれた子犬を育てている修道院もありました。
動物たちを家族と思い、大切に世話をするのも、修道女たちの暮らしの一部になっています。修道院のあまり知られていないことのひとつかもしれません。
2023年春に訪れた善き羊飼いの修道院では、1か月前に来たばかりの子ヤギのティナに会うことができました。
小さい(チキティーナ) からとった名前がかわいい。最初はお母さんを恋しがって夜中になると鳴き、シスターたちを困らせたそう。
マザー・ピラールが話しかけると、もうすっかり慣れている様子で、甘える仕草がなんとも愛らしい。
サン・ファン・デ・アクレ修道院では、マザー・ヴィルヒニアがまだへその緒がついている黒い子羊を見せてくださいました。
前日に産声をあげたばかりだとは信じられないくらい元気に飛び跳ねて、お母さん羊を呼ぶ声も大きい。
シスターたちがつけた名前は「カルボネータ」。日本語で言えば「炭子」ちゃん。気がついた時には羊小屋で既に生まれ、お母さん羊の長い毛が邪魔でお乳が飲めずにいたところだったそう。
急いで毛を剃り、お乳を飲めた時には、涙が出そうにうれしかったと目を細めて炭子を見つめるマザー。
そんな話をしていると、羊たちとの境の網の向こうからポニーが小さな声でいななきました。修道院の聖人ファン(聖ヨハネ)にちなんだ名前「フアニート」と呼ばれている、2歳のポニーです。
「フアニートは炭子に嫉妬しているのよ。いつもより甘えてきたり、すねたりするの」とマザー。嫉妬するなんて、普段どんなにかわいがられているのかがわかります。
炭子が生まれて、修道院にはバスク種のラシャ羊が3頭になりました。ラシャ羊の乳からつくるチーズ「イディアサバル」、ミルクプリンに似たお菓子「マミヤ」は、バスクの人たちの生活には欠かせません。
修道女たちも、いつかはチーズやマミヤをつくれたら、と考えています。
本記事は『修道院の煮込み スペインバスクと北の地方から』(主婦と生活社)からの抜粋です
〈撮影/丸山久美(現地写真)〉
丸山久美(まるやま・くみ)
スペイン家庭料理研究家。アメリカ留学後、ツアーコンダクターとして世界各地をまわり、マドリッドに14年在住。現地の料理教室に通いながら家庭料理をベースとしたスペイン料理を習得し、修道院をめぐって修道女たちから料理を学ぶ。帰国後は、テレビや雑誌などでスペイン料理を軸にした料理を提案。2006 年から東京・杉並区の自宅でスペイン家庭料理教室「mi mesa」主宰。著書に『バスクの修道女 日々の献立』(グラフィック社)、『修道院のお菓子』(扶桑社)など。2023年10月に『修道院の煮込み スペインバスクと北の地方から』(主婦と生活社)を発売。
webサイト:https://k-maruyama.com
インスタグラム:@maruyama_kumi
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スペイン家庭料理研究家・丸山久美さんが、スペインバスクおよび北部の修道院を訪ねて修道女から教わったレシピと、文献からのレシピをまとめた1冊。煮込み料理を中心とした1皿目、2皿目、デザートの献立形式での提案と、単品の煮込み料理を数多くご紹介しています。このほか、修道院の一日の過ごし方や、修道院の台所や食堂、器についての解説と、現地で撮影した写真もたっぷり掲載しています。