(『天然生活』2023年11月号掲載)
動物や植物からインスピレーションを受けて
動物の毛並み一本一本まで、ていねいに表現された繊細な刺しゅう。コーラル&タスクの刺しゅうは機械刺しゅうですが、ハンドメイドのようなやさしい風合いです。
デザインを手がけているのは、ステファニー・ハウズリーさん。アメリカ・オハイオ州で生まれ育ったデザイナーです。
「曽祖母はレース編み、祖母はクロッシェ、母はクロスステッチに夢中。針仕事をする家族のなかで育った私は、ごく自然に刺しゅうをたしなむようになりました。いつも刺しゅう糸とはぎれを袋に入れて持ち歩き、糸で絵を描くように好きなように刺していました」
絵を描くことと刺しゅうが大好きだった少女は、美術大学へ進み、テキスタイルデザインを専攻。卒業後はニューヨークに移住し、テキスタイルデザイナーとしてキャリアをスタートさせます。
仕事も波に乗っていたあるとき、子育て中の友人にプレゼントしようと、手刺しゅうでカードゲームをつくろうと思い立ちました。
「カードは海の生物をAからZまで2枚ずつ、全部で52枚。つくり始めたらとても時間がかかることがわかり、刺しゅう専用のミシンを入手し、独学で使い方を覚えてカードを完成させました」
これがミシンでつくった最初の作品。のちにコーラル&タスクの製品第1号になったものです。
一点一点ミシンで仕上げていた製品は、オーダーの増加に伴い、やがてインドの工場で生産するようになりました。機械刺しゅうになっても、デザインをするのは一貫してステファニーさんです。
「コーラル&タスクでは、手刺しゅうをするように私がデジタルで刺しゅうファイルをつくり上げます。動物の毛の流れをどうするか、小さな目の中にいくつステッチを入れるか。絵を描くようにすべてを手作業で仕上げたファイルを機械で刺しゅうすることにより、私が表現したい手刺しゅうに限りなく近いものができ上がります」
刺しゅうで表現するのは、動物や植物など自然を題材にしたストーリー性のあるもの。作業は手描きのスケッチから始まります。
「まず、自分の描きたいストーリーを絵にします。登場するのは、動物や植物がメイン。どの動物にするかは、ストーリーやキャラクターに合わせて変わります。ちょっと遊び心のあるモチーフにしたいときは、キツネやクマなどを選びます。2本足で立って、人のように服を着て、楽しそうにしている姿が想像できますから。そしてそれぞれの動物が何を持って、何をしていたら楽しいか想いをめぐらすのです。そうやって描いたひとつひとつがモチーフになります」
〈撮影/ウィル・エリス 取材・文/須藤敦子〉
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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