(別冊 天然生活『小川糸さんの春夏秋冬を味わうシンプルな暮らし』掲載)
自然のリズムに沿って、山で迎える初めての冬
標高1600mの、信州の山の中。深い森に囲まれた静かな土地に、小川糸さんは小さな山小屋を建てました。
「頑丈で、中に一歩入れば心から安心できる小屋を、とお願いして建ててもらいました。不思議なことに、最初の日から、もう何年も前からここで暮らしていたような気になったんです」
![画像: 自然に溶け込むようにして立つ、小川さんの山小屋。外壁に使われているのは地元産のカラマツの木。経年変化も楽しみ](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/d464c307f968dbbd2f94b0f8d5ac1f8370851233.jpg)
自然に溶け込むようにして立つ、小川さんの山小屋。外壁に使われているのは地元産のカラマツの木。経年変化も楽しみ
想像以上に激しく吹きつける雨風や、庭に植物を植えるたびに、やってきて食べようとする鹿。生活してみて初めて知った自然の姿もたくさんありました。
晴れたら庭仕事をしたり、愛犬ゆりねと散歩に出かけたり。雨が降ったら家で仕事をしたり、保存食を仕込んだり。山での一日は、あっという間に過ぎていきます。
「東京での暮らしと違うところは、なかなか予定を立てられないこと。標高が高い山の中なので、一日のうちに天気がころころと変わります。すべてが天気次第なので、何時にこれをして、という時間割もつくれないし、自分の都合では動けません。自然が相手というのは、こういうことなんだなと思います」
そんな自然のリズムを受け入れながらの生活がすっと肌になじんだのは、この土地の気候や環境が2年半前まで暮らしていたドイツのベルリンとよく似ているから、と小川さんはいいます。
「天気が変わりやすいところや森の雰囲気などがベルリンみたいなんです。ここでの暮らしは、以前のベルリンでの生活とつながっているなという感覚。自分らしく、自然体でいられます」
もうすぐ、山小屋で迎える初めての冬。厳しい寒さは、きっとベルリン以上です。
「初めて使う薪ストーブも、何回か練習して火のつけ方を覚えました。寒さが増すにつれて手に入る食材もきっと少なくなるだろうから、時間があるときにトマトソースやジャムをつくったり、野菜を冷凍したり乾燥させたり。これまで以上に冬に備えるという意識は強まっていますね」
真っ暗な森に囲まれた小屋で灯すキャンドルのやさしい光や、薪ストーブのぬくもり。厳しい自然の中だからこそ味わえる楽しみもきっとあります。
そして、長い冬が過ぎたあとの春を迎える喜びは、きっとひときわ大きいはずです。小川 糸さんの、冬の楽しみ8つ
小川糸さんの、冬の楽しみ5つ
01_冬の楽しみ
夕方からキャンドルを灯す
夕方、辺りがだんだん暗くなってくるのに合わせ、少しずつ灯していくキャンドル。柔らかな光とともに、暮れゆく森や部屋の様子を味わいます。
![画像: 夕方になると、少しずつ灯していくキャンドル。愛犬のゆりねも小川さんの横でゆったりくつろいで](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/9d3e744bc1238743379709dcd3b2ca1294c47604.jpg)
夕方になると、少しずつ灯していくキャンドル。愛犬のゆりねも小川さんの横でゆったりくつろいで
「東京と違って、ここは日が暮れると本当に真っ暗になります。だからこそ、夕暮れや闇をいっそう楽しみたいと思うように。同時に、光を取り入れることも大事にしています」
とくに夜が長くなる冬、灯は気持ちを明るくしてくれる存在でもあります。
02_冬の楽しみ
自家製ハーブの石けんづくり
自然に囲まれたこの小屋で前からしようと決めていたのが、ハーブの蒸留水で石けんをつくること。
![画像: 庭で育てたミントを摘んで。ほかにもセージやラベンダーなどを育てている](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/4a9530ae8efbe2beb420a6ec5d4cfe2188792999.jpg)
庭で育てたミントを摘んで。ほかにもセージやラベンダーなどを育てている
庭で育てたハーブや自生している草を摘んできて蒸留器で蒸し、できた蒸留水をオイルや苛性ソーダと混ぜ、固めれば完成です。できた石けんからは自然のいい香りが。
「いろいろなハーブや植物で試してみています」
![画像: 銅製の蒸留器で蒸留水を抽出。「1滴ずつ落ちるのを見るのも楽しいです」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/ed142faa184672cac3182b2028f94f0e6b417ea7.jpg)
銅製の蒸留器で蒸留水を抽出。「1滴ずつ落ちるのを見るのも楽しいです」
![画像: でき上がった石けんは「顔や髪、体など、すべてこれひとつで洗っています」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/bdb0cf85ea899985c52777a8e27ad3eb4227897d.jpg)
でき上がった石けんは「顔や髪、体など、すべてこれひとつで洗っています」
石けんのほかにも化粧水やハンドクリームなどをつくって楽しんでいます。
![画像: みつろうキャンドルの溶けたものは、オイルと好きな精油を混ぜて保湿クリームに。顔や手などにぬっている](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/b6489a08de04b4bfb5f614db05d6434aeaa79343.jpg)
みつろうキャンドルの溶けたものは、オイルと好きな精油を混ぜて保湿クリームに。顔や手などにぬっている
03_冬の楽しみ
春のための球根植え
雪が地面に降り積もってしまう前に、春に芽を出す球根を庭に植えます。
![画像: 来年の春、無事に芽を出すことを願いながら、大きな木の下に球根を植える](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/74a82879d051eb4aad9038a338be47b405ee9ac2.jpg)
来年の春、無事に芽を出すことを願いながら、大きな木の下に球根を植える
「初めて植えるので、どうなるかわかりません。ここは冬の間、ものすごく気温が下がるし、鹿がやってきて地面の中の球根を掘り出して食べてしまうかも」
![画像: ミニ水仙とスノードロップ。「有毒な水仙の球根は、鹿も食べないかも」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/2c98bf7f8afbcea8c673320b7d323d15df42c38f.jpg)
ミニ水仙とスノードロップ。「有毒な水仙の球根は、鹿も食べないかも」
芽が出る可能性は低いかもしれないけれど、それでも挑戦してみたい、と小川さん。
「冬が寒くて長い分、春が待ち遠しくて、芽が出たときの喜びは格別のはずだから」
04_冬の楽しみ
シュトーレンづくり
ドイツの伝統的な冬のお菓子、シュトーレン。
「以前暮らしていたベルリンと似た気候や環境のこの土地にやってきて、自分でもつくってみようと思いました」
![画像: ドイツではクリスマスまでの約4週間に少しずつスライスして食べる習慣が](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/5161391c397203b9cd329633c9029feed96d4491.jpg)
ドイツではクリスマスまでの約4週間に少しずつスライスして食べる習慣が
使ったのは地元産の小麦粉やカシグルミ、干しぶどうや干しリンゴ、それに大好きな国、ラトビアのクランベリーも加えて。
「日持ちするこのお菓子を毎日少しずつ味わうところに、寒い冬を楽しく過ごすための工夫がある気がします」
05_冬の楽しみ
薪ストーブと仲良くなる
この小屋で使うことになった、人生初の薪ストーブ。
![画像: たまった昔の手紙の整理もストーブの前で。中身を確認して、処分するものは火にくべて](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/d8e8f6aaf32d088aa070e0042eaf37a7da903df3.jpg)
たまった昔の手紙の整理もストーブの前で。中身を確認して、処分するものは火にくべて
「最初は火をつけるのが難しかったのですが、薪の選び方やくべ方など、何回か練習するうちに、少しずつコツをつかんできました。小屋全体がじんわりと温まるし、炎はずっと見ていても飽きません。夜、ストーブの前に座ってワインを飲んだり食事をしたりすることも」
![画像: 焚きつけ材としてぴったりの松ぼっくりは散歩の際に拾い集めてくる](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2023/12/13/7725744abdc740a1347db1eee5bb15f3802b4311.jpg)
焚きつけ材としてぴったりの松ぼっくりは散歩の際に拾い集めてくる
冬の山暮らしには欠かせない存在に、ゆっくりと、着実になじんでいます。
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<撮影/柳原久子 取材・文/嶌 陽子>
小川 糸(おがわ・いと)
デビュー作 『食堂かたつむり』(2008年)以来、『ツバキ文具店』『ライオンのおやつ』など、30冊以上の本を出版。作品は英語、韓国語、中国語、フランス語、スペイン語、イタリア語などに翻訳され、さまざまな国で出版されている。公式サイト「糸通信」https://ogawa-ito.com/ では不定期で日々の出来事を綴っている。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです