(『66歳、家も人生もリノベーション』より)
住みながらセルフ・リノベーション
無事、2月末に転居しました。転居したとたん、雪が降った。長い間、誰も住んでいなかった家ですからね、家の芯から冷えている。
寝室だけはガスストーブを入れましたが、作業するのはリビングです。よく頑張ったなあと思います。
好きだからできたことですね。タイル張りもペンキ塗りも大好き。その作業が好き、というより、できあがっていく様子をリアルタイムで見られるのが好きなんでしょうね。
聴覚が人より足りないことで、形成された性格かもしれない。
難聴が進行するのに比例して、見えるものへのこだわりが強くなったような気がするんですよね。住むところも。最終地が湖畔、だった気がします。
ペンキの色は白にしました。今ならもう少し陰影のある色を選ぶかもしれないけど、そのころは明るい部屋にしたかった。京都の町家が暗かったので。
ペンキを塗るのは面白いけど、その前にまわりを養生する(ペンキがつかないようにマスキングをする)のは好きじゃなくて、私はすぐに手を抜こうとする。
そのたびに夫から怒られてました。
リビングは吹き抜けです。脚立に上がっての作業です。天井は首が痛くなるし、ローラーでも飛沫が飛ぶんです。白い霧雨です。雨合羽とメガネで防御はしてましたが、それでも霧雨が。最後はタオルを職人巻きです。
とはいえ天井はほとんど夫が担当してくれました。
そういえば私、高所恐怖症だったんですよ。終わったら、4、5mくらいの高さなら、平気になっていました。
床はフローリング材ではなく、足場板を敷きました。ペンキの痕がついている、中古の足場板。夫も反対しませんでした。費用も安くすむし、作業もカンタンだから、これ幸いだったんじゃないかと思います。
ロンドンのヴォクソールにあるアンティーク・ショップ「Lassco」が、こういうごろっとした板(松かな)を敷いていたんですよ。それがもうひれ伏したくなるほどカッコよくて。
足場板は杉だからチープではあるけれど、流通しているフローリングの床材より、雰囲気は近い。これで充分。
そんなわけでわが家の床材は足場板になりました。永遠に工事中です。
薪ストーブの周辺は乾燥してすき間ができていたりはします。拭き掃除、雑巾がけはしにくいです。ひっかかるし、水を吸収してしまう。
でも汚れは目立たない。土足でも平気です。ただし玄関からキッチンにかけての床はそのままです。住みながらのリノベだったのがいちばんの要因です。段ボールや家具をここに積み上げていたので。
ここは極薄の寄せ木張りです。昭和40年代はこれが新しかった。極薄でなければお気に入りなんですけどね。いずれ張り替えてほしいと願いつつ、8年近く。
タイルにしたいと思いつつ。時は流れてしまうのです。
本記事は『66歳、家も人生もリノベーション』(主婦と生活社)からの抜粋です
麻生 圭子(あそう・けいこ)
作詞家として数々のヒット曲を手掛けたのち、、聴力が衰える病気「若年発症型両側性感音難聴」が深刻化し、エッセイストに転身。京都町家暮らし、ロンドン生活を経て、2016年より琵琶湖のほとりに住む。2023年11月『66歳、家も人生もリノベーション』(主婦と生活社)を発売。
◇ ◇ ◇
80年代アイドル曲の作詞家からエッセイストへ、転身のわけは、難病(若年発症型両側性感音難聴)の進行。そして、人工内耳を入れたいま、66歳にして、音とともに新たな人生が始まりました。
麻生圭子さんの軽やかで清々しい言葉で綴られた、新しい人生のための再構築についてのエッセイ集。
古い小屋を夫婦でセルフリノベーションして自分に素直に、自由な気持ちで。まさに、家も人生もリノベーション! これから先の人生を愉しむヒントになるはずです。