(『66歳、家も人生もリノベーション』より)
カフェのようなキッチンにしたい
キッチンに取りかかったのは初夏になっていたと思います。
キッチンは家の要、というけれど、私の場合、キッチンの性能にはこだわりがなくて。カフェのようなキッチンにしたいなあ、と思うくらいでした。
性能というのは、食洗機がビルトインされているとか、そういう類のことです。
私、食洗機なら洗濯乾燥機がビルトインされている方がいい。そしたらペーパータオルは使わなくてすむ。がんがんクロスを使ってどんどんドラムに突っ込む。
ロンドンではキッチンに洗濯機がビルトインされていた。すごく便利でした。
うち、炊飯器もありません。オーブントースターも去年までなかった。夫がそういうの好きじゃないんです。食パンはグリルで焼いていたんですよ。ブレンダーとかといっしょに、クローゼットに隠しています。
大鍋もクローゼットにしまってある。大鍋じゃないものも、たとえば「有次」の卵焼き器、親子丼鍋、刺身包丁もクローゼットに。
料理を好きになろうと、京都時代、錦の有次の料理教室に通っていたんですよ。好きこそものの上手なれ、の逆。得意になれば好きになるかな、と。ええ、好きになりました、道具が。通うたびに道具が増えて、肝心の料理の方は今ひとつ。夫も途中から通いました。
夫は料理、好きです。男の料理。本格的に作るのが好きです。そう、だから便利なものが好きじゃないんです。オーブンは業務用を買ってくれました。
キッチンも業務用を考えて、最初は専門店に見に行った。でもガタイがよすぎる、完全に見た目が体育会系なんですよ。アメフトとかラグビーとか、そっち系。
これは懸命に阻止。シンプルだけど華奢なものを探すことに。オールステンレスでシュッとしている。スタイリッシュという謳い文句。サンワのシステムキッチン「オッソ」にしました。見た目はフィギュアスケートかな。コンロとシンクと調理台だけの、銀色の骨格だけのキッチンです。
ただシンプルすぎて、カウンターの下はただの空間。扉がついていないので、調味料なんかを置くと丸見えになるんですよ。なので目隠しする必要がある。そろいの黒のボックスを買い揃えました。カウンターの上も収納はありません。もともと出窓がついていたので、そこを棚にすることに。
ユーズドの灰色のレンガを重ね、3枚、足場板(新品です)を渡しました。足場板だという出自を忘れてしまえば、厚くて無垢、安い、好み。
うつわはここに。見せる収納です。取りにくいんですけどね、慣れました。スタイリッシュなシステムキッチンは見るかげもなく。
ごちゃごちゃなんですよ。うちのキッチン。
せめて抜け感を作ろうと、去年、窓ガラスを透明に替えてみました。もともとは昭和時代のレトロガラスが入っていました。うつわの後ろに山が見えるようになりました。
琵琶湖が見えるのなら、もっと抜けたんでしょうけど。そんなキッチンなのに、ときどき雑誌の取材を受けたりします。ウォーター・クローゼットやリビングならわかるんですけど(自信過剰)、なぜかこのキッチンがウケるんです。
キッチン特集で、雑誌の表紙になったこともあるんですよ。びっくりでした。見せる収納というのは情報たっぷりですからね。編集部に、あのお鍋はどこのですか? うつわは? と問い合わせが入ったらしい。
ものが増えすぎ。近々、整理をしようと思っています。カフェのようなキッチン、もう一度、目指そうと思っています。
本記事は『66歳、家も人生もリノベーション』(主婦と生活社)からの抜粋です
麻生 圭子(あそう・けいこ)
作詞家として数々のヒット曲を手掛けたのち、、聴力が衰える病気「若年発症型両側性感音難聴」が深刻化し、エッセイストに転身。京都町家暮らし、ロンドン生活を経て、2016年より琵琶湖のほとりに住む。2023年11月『66歳、家も人生もリノベーション』(主婦と生活社)を発売。
◇ ◇ ◇
80年代アイドル曲の作詞家からエッセイストへ、転身のわけは、難病(若年発症型両側性感音難聴)の進行。そして、人工内耳を入れたいま、66歳にして、音とともに新たな人生が始まりました。
麻生圭子さんの軽やかで清々しい言葉で綴られた、新しい人生のための再構築についてのエッセイ集。
古い小屋を夫婦でセルフリノベーションして自分に素直に、自由な気持ちで。まさに、家も人生もリノベーション! これから先の人生を愉しむヒントになるはずです。