(『天然生活』2023年2月号掲載)
“楽しい”を優先させた日々の暮らし
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
「東京にいたときは、住まいが道路に面してたので排気ガスが気になるし、気温もそこまで下がらないから上手に乾燥できるか、カビが生えないかと心配でした。でもいまの生活なら『いただいた柿がたくさんあるし』『干すのにいい軒先があるな』『じゃあつくっちゃおう』と、つくるまでのステップがスムーズなんです」
福島県三春町に移住して、7年目。以前にも増して、手を動かしてものをつくること、暮らしの諸々を創意工夫することをごく自然に行うようになったというちえさん。
庭の一角を野菜やハーブの畑にしたり、味噌や梅干しなどの保存食を仕込んだり。しかし田舎住まいは一方で、素材が次々に収穫され、季節仕事に追いかけられる暮らしでもあります。
「移住した当初は『いつかやりたい』と思っていたことだからと、張り切りすぎの部分もありました。でも張り切りすぎると疲れてしまうし、無理をすると長く続かない。自分が『楽しいな』『面白いな』と思える範囲を守ることを心がけるようにしています」
大量の柿の皮むきを「義務」と考えると苦痛ですが、つくる行為そのものが「楽しみ」になれば、軽やかに取り掛かれます。「今年の柿は去年と比べて大きいな」「色がきれい」「夏の気候がどう影響しているのかしら? 」
五感を存分に使って素材に向き合うと、不思議と雑念も消え、心が穏やかな状態に。「それをしている自分が好き」という自己満足感も、やる気を出すのに上手に利用します。
「電気代のことも同じですね。わが家は『電気代が少ない』と東京から来た友人にも驚かれるんですが、『電気代を減らそう』が先にくると、辛くなっちゃう。
それよりも『こうすると自分たちが快適だな』と試した結果が、たまたま節約につながるような、そういう方法を探していけるといいなといつも考えています」
小さな暮らしの心地よさ_01
つくることが負担にならない自分サイズの保存食づくり
田舎暮らしのいいところは、季節の恵みが豊かなこと。食事の基本となる味噌や梅干しをはじめ、季節の保存食づくりは生活の一部というちえさん。
それなりの量を一気にやるので、取り掛かるときは「えいっ」と重い腰を上げる感じですが、自分が楽しめる範囲で行うことを信条に。
「つくりつづけることで季節の移り変わりをしっかり体感できますし、ほんの少しずつ腕も上達してるような気がしています」
小さな暮らしの心地よさ_02
快適に過ごしながら、電気代を抑えるあれこれ
2匹の猫を飼っている長谷川家は、温度を一定に保つためにエアコンをつけっぱなし。
それでも電気代がかなり安く済んでいるのは、起動時の消費電力が抑えられているのと、一軒家のリフォーム時に断熱施工を行い、高気密な樹脂サッシを導入して室内の熱が外に逃げにくい状態にしているから。
また、テレビや電子レンジ、炊飯器、食洗機といった家電も使っていないため結果的に電気代の節約に。
小さな暮らしの心地よさ_03
ものを最後まで活用できるよう「手放しルート」を考える
ものを増やさずすっきり暮らすために、たまりがちな服や本は「不用になったらここへ」と、手放すルートをしっかり確保します。
洋服は友人が定期的に行っているマルシェのフリマに渡し、売り上げは寄付へ。読み終わった本は、福島にある友人のブックカフェ「コトウ」に引き取ってもらうように。
「次のだれかに役立ててもらえると思えば、気持ちの切り替えもスムーズになり、気持ちよく手放せます」
小さな暮らしの心地よさ_04
友人や知人に1票を投じる、循環するお金の使い方
「買い物は選挙と同じ。同じお金を払うなら、志のある友人や知人を応援するものに使いたいと思っています」とちえさん。
暮らしにお金は必要ですが、単なる「消費」ではなく、お金のやり取りとともに気持ちの受け渡しもできていれば、「もっともっと」と過剰な欲をふくらませるようなこともなくなります。
「in-kyoでもそんなつながりがもてるものを選び、お客さまに届けるようにと心がけています」
<撮影/有賀 傑 取材・文/田中のり子>
長谷川ちえ(はせがわ・ちえ)
エッセイストとして活躍しながら、2007年東京・蔵前に生活道具を扱うお店「in-kyo」をオープン。2016年に福島県三春町に移住・移転。夫と2匹の猫スイ、モクと平屋の一軒家に暮らす。著書に『三春タイムズ』(信陽堂)がある。現在自宅そばで「in-kyoのとなり」を建設中。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです