(『天然生活』2022年11月号掲載)
幸せは、暮らしのなかのひらめきや発見から生まれる
神奈川県葉山町で土地に根ざした暮らしをしている伊藤千桃さん。朝から庭仕事に精を出し、収穫した実りをその日のごはんにしたり、保存食にしたり。それが、伊藤さんの穏やかな日常です。
「うちにお金がなくて本当によかった(笑)。おかげで、周りの自然の豊かさに気づき、恩恵をいただいて暮らす知恵がつきました」
元ミス日本という華やかな経歴をもちながら、飾ったり、見栄を張ったりすることがなく、常にありのまま。人がうらやむような贅沢な暮らしは求めていません。
無欲なわけでなく、自分の物差しをしっかりともち、幸せのビジョンを明確にもっています。そして、日々の暮らしのなかでの発見やひらめきが“幸せ”の源泉です。
「ここに住んでさえいられれば、心穏やかに過ごせ、幸せでいられるんです。バッタやトンボと目が合ったり、草木の芽吹きや蕾のふくらみなどから季節のめぐりを感じたり。自然のなかに身を置くと、いつも何かしら素敵なことが起こるんですよ。それを見つける楽しさったらない」と伊藤さん。
山深い不便な土地柄ゆえ、ふだんから「何でも自分で」の精神が根付いています。セメントをこねてレンガを積み、BBQの炉をつくったこともあり、庭木の手入れもすべて自力。
お茶や化粧水も庭の薬草で手づくりしています。
「私にもできるかも?! と、ひらめいたら挑戦しないと気が済まない性分で。まだまだできることを増やしていきたいし、身についた知恵や技は宝だと思っています」
幸せのマイルール
「できないことはない」と何でもトライしてみる
庭仕事は朝の日課。庭師に頼むと何十万円もかかることもひとりでやってのけます。4年くらい前に購入した草刈り機の扱いもお手のもの。
「夏場は手では間に合わないので草刈機でザッと刈り、あとは手作業。庭木の高い枝も長年うまく切れずに苦労していましたが、最近、素晴らしい高枝ばさみを入手し、いまではハシゴを使わずに下から簡単に伐採できて助かっています。庭の木々を剪定しまくっていると、こんなことまでできてなんて幸せな私! と思います」
幸せのマイルール
家族とのつながり。3世代で仲良く元気に
幼いころから養父母に育てられ、実父はすでに他界。現在は娘さん親子と同居中で、息子家族も近くに住んでいます。
「3世代で仲良く暮らせていることは、私にとって最大の幸せ。大事に育ててくれた養父母には感謝しかありませんが、いまでは子どもと孫に恵まれ、血のつながりのありがたみを感じています。息子家族が近くに越してきてからは、毎月だれかの誕生会と称して集まって、楽しく過ごしていて、家族には感謝しかありません」
幸せのマイルール
植物や生物に触れ合い、自然の力をもらう
「みつばちや小鳥の巣を見つけたり、晴れた日は富士山を眺めたり、自然に囲まれていると毎日が楽しくて仕方ないんです」
庭では、たくさんの植物を育て、メダカも飼っています。
「庭の池で数匹から50匹ぐらいまで増やしたのに蛙の被害に遭ってしまいました。いまは睡蓮鉢に移し、カラスに狙われないように水草を入れて守っています」
植物や生物と触れ合いながら、思いっきり深呼吸すると、草木の匂いを吸い込みながら幸せも吸い込んでいる気がするそう。
いつもそばに。私のお守り
養父の丸めがね
「私が20歳のときに亡くなった養父のめがね。学者だった養父が机に向かうときかけていました」
いつか自分で使いたいと思って、50年以上も大切に保存中。
孫からもらったトートバッグ
愛用中のトートバッグは孫からのお土産。
「2年前に親子で行った旅行先で見つけたようで“バーバに似合いそう”とお小づかいで買ってきてくれました」
インドネシアの人形
伊藤さんのルーツ・インドネシアの操り人形は従兄弟からのプレゼント。
「人形劇で使われるもので季節ごとに装飾や衣装を手づくりし、大事に飾っています」
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<撮影/砂原 文 取材・文/坂口みずき>
伊藤千桃(いとう・ちもも)
1950年ジャカルタ生まれ、1972年度ミス日本、元女優。結婚後、葉山に移り住む。離婚後は「桃花源」の屋号でレストランを営み、地野菜を使った料理で人気に。現在はデリバリーや民泊などを行う。著書は『千桃流・暮らしの知恵』(主婦の友社)。薬草をブレンドした自家製のお茶を冬に販売予定。インスタグラム@toukagenhayama
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです