(『天然生活』2022年5月号掲載)
美しいものを見て一日の始まりを清々しく
部屋の窓は東向き。日が昇るにつれて、朝の光が差し込みます。壁に生まれる陰影はインスタレーションのよう。雲がかかれば失われ、晴れればまた現れる。一日の始まりに、矢野さんが最初に目にする、美しい光景です。
「在宅勤務で夕方、ここで過ごすときもあるのですが、西日が周りのビルに反射して、窓から差し込むんです。都会ならではですね」
転職を機に、大阪で単身赴任を始めて1年半。駆け足で物件を見てまわって決めたここは会社からすぐ、月の半分以上を過ごします。
「夫と愛犬と暮らす東京の住まいは公園のそばですが、ここは都心の、ビルの谷間。窓から緑が見えないので、朝の光に救われます」
ゆっくり見ているゆとりはないけれど、コーヒーを飲みながら目にして、だんだんと心を整えていきます。好きで手に入れた写真や絵、小さなアートもその助け。
「東京から持ってきたのは、必要最低限。だけど、久しぶりに来た友人からは、少しずつものが増えているねといわれました」
馬酔木(あせび)の枝を挿すのはガラス作家・津田清和さんの花器。最近手に入れたのは、南宋時代の白釉瓶(はくゆうびん)。いずれもこちらに来てからめぐり合ったもの。美しいものを目にすることが日々の原動力になります。
毎朝6時起床。目覚めに白湯を飲んで、神棚にごあいさつし、お風呂へ。朝食はとらず、コーヒーだけ、ハンドドリップで淹れて。
「朝、おなかがすいていないのに無理して食べなくてもいいかなと思って。これをしなくちゃじゃなくて、気持ちよかったら、続く。お白湯(さゆ)も、入浴法もやってみたら気持ちよくて習慣になりました」
ひとり住まいのここではすべてが自分次第。ルーティンがあることでリズムが整います。
「東京の自宅ではテーブルに手紙や本を置いたままでも、それが家族の心地よい気配になっていたんです。だけどここにあるのは私だけの気配。散らかっているとさびしくなるから、テーブルにものを置いたままにしないで意識して整えるようになりました。清々しい場であるように」
家の中のスイッチをすべて切り、玄関の鍵を閉めたら、「さあ働こう、いってきます」と思うと矢野さん。心も体も前を向いています。
整える朝習慣 1
移り変わる、朝の光を楽しむ
朝の光が差し込み、部屋の中に美しい陰影が生まれます。くっきり直線を描くこともあれば、ぼんやりと明るい日も。日々刻々と見え方が変わります。
「大通りに面し、窓からの景色は楽しめないので、代わりに朝の光を眺めます。朝の光を浴びると体にいいと聞くので日光浴も兼ねて」
単身赴任のため持ち物は最低限。すっきり整っているからなおさら清々しく映えます。
整える朝習慣 2
神様にお供えしごあいさつする
大阪に単身赴任するにあたり、伊勢神宮、住吉大社、自分の氏神さまにお参りした矢野さん。それぞれの神社でお札を授かり、寝室に神棚をつくりました。
友人からもらった、お清めに使われる精麻(せいま)もここに。
「毎朝、お塩とお米、お水を替えます。信心深いというわけではないのですが、神様にごあいさつするのが習慣になりました」
一日の始まりに、気持ちを新たにする、小さな儀式です。
整える朝習慣 3
美しい写真や絵、アートを目にする
デザインを仕事にしてきた矢野さんにとって、写真や絵、器、骨董……と人の手でつくられてきた美しいものに触れることが、インスピレーションにつながります。
「朝の光もそうですが、美しいものを目にしたくて、好きで手元に置いたものを眺めます」
月に何度か、作品を入れ替えて。ゆっくりと眺める時間はとれないので、出かけるまでの間、自然と目に入るように。
整える朝習慣 4
植物をそばに置く
東京の住まいは公園が近く、週末の朝は愛犬と散歩するという矢野さん。ここは周りに自然がないので、部屋にいつも植物を。
「留守にすることもあるので、鉢植えを育てるのは難しいから枝ものを。いま部屋にあるのは馬酔木、2カ月過ぎても元気です」
大きいものを手に入れてガラスの器に挿しておき、枝を切って別の花器に移したり、散る姿も愛でたり、日々、楽しめます。
整える朝習慣 5
体が目覚める、白湯とコーヒー
寝る前と、目覚めに白湯を一杯。
「体が温まって、おなかもすこやかに動き出す気がします」
その後、朝の入浴を済ませたら、淹れたてのコーヒーを味わいます。
「コーヒー豆にこだわりはないのですが、ハンドドリップで淹れて、ミルクを少し。大きめのカップでたっぷりと飲みます」
朝の光を楽しんだり、好きなアートに目をやったり、しばしゆっくりと。気持ちを整えて、仕事に向かう準備を。
朝の時間割
06:00 | 起床 |
06:30 | 白湯を飲む |
神棚にあいさつ | |
07:00 | 朝風呂 |
08:00 | コーヒーを飲みながら日光浴 |
スケジュールチェック | |
08:30 | 出勤 |
* * *
<撮影/l.a.tomari 取材・文/宮下亜紀>
矢野直子(やの・なおこ)
ハウスメーカーのデザイン設計部に勤め、大阪・東京の二拠点生活を送る。多摩美術大学卒業後、1993年、良品計画入社。2002年から夫の赴任先スウェーデンに住み、帰国後、Found MUJIなどを担当。三越伊勢丹研究所勤務、良品計画生活雑貨部企画デザイン室室長を経て、2020年から現職。プロダクトデザインから、家をつくる仕事へ。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです