(『天然生活』2021年6月号掲載)
日々、クローゼットは変化を続けます
金子さんのクローゼットには、服がたったの47着。この数で不自由なく、満足度高く暮らしています。なぜならすべてが、ヘビーローテーションの一軍服だから。
「着ない服に占拠されていた空間を有意義に使えるし、コーディネートに悩む時間からも解放されたのがうれしいですね。引き算クローゼットを実践したあとは、皆さん『乱雑にしまいこまれた服を目にするたびにわき上がる罪悪感とイライラ、服選びに迷うあの徒労ともいえる時間はなんだったのだろう』と感じるはずです」
さらに、クローゼットが少数精鋭になってから、服それぞれに対する愛着が増したそう。手持ちの服が少ないからこそ、1枚ずつに目を配ることが多くなり、縫い目の細かさや布端の処理など、“機能”を意識することが多くなりました。
「そんなさまざまな条件をクリアして残った服はすべて、自分にとってなくてはならないもの。少しのほつれやすり切れは、まめにケアして長く着続けようと自然に考えるようになりました。さらに、手持ちの服が少なくなると、どうしても洗濯の回数も多くなり、ケアするにも限界がきて処分せざるを得なくなります。そんなときも、『十分、元はとれた』と晴れ晴れとした気持ちで手放せます。そしてまた、新しく必要な服を手に入れるときにも、自分の本当に欲するものへの精度が上がっていますから、失敗はまずありません」
金子由紀子さんのクローゼットの中全部
ちなみに、「このクローゼットは、あくまで“いまのところ”という感じです」と金子さん。引き算クローゼットは、一度実践したら終わりというわけではなく、少しでも違和感をもったら、見直すことが長続きの秘訣だそう。
「現在は、外で会食するなどの用事がほとんどないので、この状態がベスト。けれど、社会情勢が変われば、もう少しきちんとした外出着を増やすことになるでしょう。子どもが大きくなって公園を走りまわる必要がなくなったり、仕事を引退してスーツがいらなくなったり……暮らしの変化によって必要な服は変わるもの。それに気づかず頑なでいると、クローゼットはまた、『着ていく服がない』状態になるので、注意が必要ですね」
服の多さとおしゃれは必ずしも比例しないし、多すぎる服は、むしろ自分らしいおしゃれのあり方を見えづらくしてしまいます。
すっきりと引き算されたクローゼットは、いまの暮らしを映す鏡のようなもの。風通しよく、心地よく整えることは、暮らしそのものを整え、見直すことでもあるのです。
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<撮影/山田耕司 取材・文/福山雅美 イラスト/カトウミナエ 構成/鈴木麻子>
金子由紀子(かねこ・ゆきこ)
1965年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスに。“シンプルで質の高い暮らし”を軸に幅広い執筆を行っている。All About初代ガイドを務める。著書は『ためない習慣』(改定新版、青春出版社)など。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです