(『天然生活』2022年5月号掲載)
五感を刺激する和暦の暮らし
「暦は知識ではなく、感じるもの」。和暦(われき)研究家の高月美樹さんは、開口一番、そういいました。
近年、注目を集める旧暦(高月さんは“和暦”と呼称)。本誌1月号の付録「二十四節気七十二候の暮らしカレンダー」で、親しんでいる方も多いと思います。
朔つい日たちは新月から始まり、15日は満月。そこから、また月の見えない新月までで1カ月。そんな月の満ち欠けに、太陽の周期を組み合わせたのが旧暦です。
地球が太陽の周りを一周する1年間を24分割したのが二十四節気で、さらに3つに分けたのが七十二候。いまの時季なら、「桜始開(さくらはじめてひらく)」「雀始巣(すずめはじめてすくう)」など、その季節に起こることを短い言葉で表しています。
「草花の佇まい、虫や鳥の声などから、きめ細かな時の移ろいを読み取り、表しているのが和暦。自然界のリズムをダイレクトに感じ、直感を磨くためのツールとして、活用していただきたいです」
春から初夏にかけては、植物や鳥、虫たちが生き生きと活動を始め、自然の表情が豊かになる季節。それらを表現した漢字をたどっているだけで、気持ちが浮き立ってきます。
「この時季に、ぜひ楽しんでいただきたいのは『春ごと』。日が定まった行事ではありません。田植えなどの農作業で忙しくなる前に、みんなで山に入って飲食をしたり、野山で摘み草などをしたりして遊ぶことを『春ごと』といいました。現代でも家族や友人を誘って気軽にできるので、ぜひ広めていただきたい言葉です」
二十四節気~春の終わりから初夏〜
春の盛り、百花繚乱の季節。虫たちは活発に動き出し、鳥たちは子育てへと入ります。
立夏に入るころには、木々は葉を茂らせ、みずみずしい生命力に満ちる季節です。
七十二候とともに季節の移ろいを感じてみて。
春分 3/21〜4/4
出会いと別れの季節。いつの時代も節目の候
昼夜の長さがほぼ同じになる、二十四節気では大きな節目。スズメが巣づくりを始める「雀始巣(すずめはじめてすくう)」。
南から桜開花の便りが届く「桜始開(さくらはじめてひらく)」。大気が不安定になる「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」へ。
晴明 4/5〜4/19
若葉の緑がまぶしく万物が生き生きと輝く
清らかで明るく、すべてのものが生き生きとしているさまを表す「清浄明潔(しょうじょうめいけつ)」に由来。
「玄鳥至(つばめきたる)」と入れ替わりで、冬を過ごしたがんが北へ戻るころ「鴻雁北(こうがんかえる)」が。
「虹始見(にじはじめてあらわる)」で雨後の虹に出合えるころ。
穀雨 4/20〜5/4
作物にとって恵みとなる春の雨
種まきのころの雨は、農家には恵みの雨。穀物に欠かせない雨がたっぷり降るという意を込めて「穀雨(こくう)」といいます。
水辺のアシが伸び始める「葭始生(あしはじめてしょうず)」「霜止出苗(しもやみてなえいずる)」、「牡丹華(ぼたんはなさく)」と春も終盤。
立夏 5/5〜5/20
太陽の力は増し夏の気配を感じ始める
やわらかだった春の日差しは色濃く力強くなり、草木の勢いも増す季節。
カエルの声が聞こえ出す「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」から、「蚯蚓出(みみずいずる)」「竹笋生(たけのこしょうず)」と、生き物たちの動きはますます活発になっていくころ。
<撮影/近藤沙菜、高月美樹 取材・文/鈴木麻子>
高月美樹(たかつき・みき)
和暦、和文化研究家。2003年より月と暮らす旧暦手帳『和暦日々是好日』の製作、発行を手掛ける。『まいにち暦生活』(ナツメ社)など暦に関する本の監修や、講演も行う。手帳はウェブサイトにて販売している。https://www.lunaworks.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです