(『天然生活』2023年6月号掲載)
更年期を穏やかに過ごすために
女性が生きていくうえで、避けて通れない更年期。鍼灸院にもこの世代の女性たちが、いろいろな不調を抱えて来院されます。
生理周期の乱れはもちろん、ホットフラッシュやめまい、不眠、頭痛、肩こりに腰痛、イライラや落ち込み、気力の低下といった精神面の不調まで、症状はさまざまです。
更年期とは?
閉経の時期を挟んだ前後約10年間のこと。卵巣の機能が低下し、女性ホルモンの分泌が急激に減少し、ホルモンバランスがくずれ、心身にさまざまな不調が現れるとされている
更年期の主な症状
⚫︎ホットフラッシュ(のぼせる、汗が出る、顔がほてる)
⚫︎︎︎疲れやすい
⚫︎肩がこる(四十肩/五十肩)
⚫︎頭痛
⚫︎気分が落ち込む
⚫︎不眠 など
更年期に関わりがある「肝」と「腎」
東洋医学では、更年期に大きな関わりがある臓器は「肝(かん)」と「腎(じん)」であると考えます。「肝」は「血(けつ)」を貯蔵する臓器で、情緒の安定にも関わります。
「肝」は「血」がしっかり満たされていればスムーズに働きますが、足りていないと(東洋医学では「血虚(けっきょ)」と呼ばれる状態)体や精神面での不調が起きやすくなってしまうのです。
「腎」は成長・発育、生殖、老化に関わる臓器で、ホルモンバランスにも大きく関係します。
夜と昼、女性と男性、水と火という具合に、東洋医学では、自然界に存在するあらゆるものは「陰」と「陽」のバランスで成り立つと考えます。「肝」と「腎」はどちらも五臓では「陰」に属するものであり、「潤い」があってこそうまく働くと考えられています。
ここで生まれたての赤ちゃんを思い浮かべてみてください。ぷよぷよ、もちもちして、いかにもたっぷり潤っている感じですね。逆に老人はどうでしょう。
水分がどんどん減り、カサカサと乾いている感じがしませんか。東洋医学では老化というものを、体から「潤い」が減っていくプロセスとも考えます。ドライフルーツを想像してみてもいいですね。
「潤い」が急激に減ってカチカチで食べにくいものもあれば、少しずつ抜けて、ふっくらといい感じに乾燥しておいしそうなものもある。
だれしも老化は避けられませんが、「潤い」を急激に減らすのではなく、食べ物や生活養生でうまく補い、「肝」と「腎」を守りながら、ゆっくり減らすよう心がけていく。
更年期を穏やかに過ごすためには、そんな心構えが大切です。
更年期の不調が出る前から、少しずつ養生を
更年期とは「生理が終わる」という、女性の体にとって大きな節目の時期です。
人によっては「女性としてのアイデンティティーがなくなる」「自分の魅力が半減するのでは」と、喪失感を覚える方もいるかもしれません。
ですが、現代は寿命も延び、閉経してからの人生もずいぶん長いのです。その後を考え、少しでも明るく前向きにとらえてほしいと思います。
年代的に体力が落ちてくるのは仕方がないことで、全部若いときと同じようにやろうと思うと、無理があります。
ただでさえ、子育てや親の介護、仕事の責務などで忙しい時期ですから、体力面だけでなく精神面でも取捨選択を行い、優先順位をつけていくようにしましょう。
なかなか難しいとは思いますが、他人の心配をして寝不足になるくらいなら、自分の体力を守るために早寝をする。そのくらいの心構えで、ストレスを減らす工夫を心がけましょう。
今回の養生はどれも、更年期をラクに過ごすためのものであると同時に、急激な老化を防ぎ、いい歳を重ねるための養生でもあります。
いまはとくに不調が出ていなくても、プレ更年期から始めておいて損はないことばかり。不調が出てから、いきなり何かを始めるのは大変ですし、これから出るかもしれない不調を防げるかもしれません。できることから少しずつ、こつこつと。
更年期は単なる通過地点ではなく、その後のすこやかな人生の準備期間と考えてもらえればと思います。
* * *
<監修/瀬戸佳子(源保堂鍼灸院) イラスト/カトウミナエ 取材・文/田中のり子>
瀬戸佳子(せと・よしこ)
国際中医薬膳師。東京・青山「源保堂鍼灸院」併設の薬戸金堂で、漢方相談を行いながら東洋医学に基づいた食養生のアドバイスを行う。著書に『お手軽気血ごはん』『季節の不調が必ずラク~になる本』『気血スープ』(すべて文化出版局)。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです