ものが少ないシンプルな生活は、身も心も自由にし、暮らしを豊かにしてくれる。そう話すフランス人作家、ドミニック・ローホーさんが、すっきり暮らすための知恵を教えてくれました。今回は大切にしている“もの”とのエピソードを伺いました。
(『天然生活』2022年9月号掲載)
“もの”への執着がなくなってきた60代
いま、私は60代半ば。年を重ねるごとにものへの執着はなくなってきました。若いころは「これは死ぬまで手放したくない」と思うものもありましたが、最近はありません。
いまの私の財産は、ものではなく家族や友達、健康、そして自分の心。
それらは何にも代えがたいものだと実感しています。これからさらに年をとるにつれ、心をいっそう軽やかにしていきたい。
そして周りに前向きなエネルギーを与えられる人間になりたい。
それが私の今後の夢です。
ドミニックさんの“もの”とのエピソード
大切なもの、美しいものがひと握りあればそれでいい。
ものとの関係を通じて潔い生き方が見えてきます。
フランスの実家から持ち帰ったプレート
子どものころ、実家では毎日同じお皿を使って食事をしていたというドミニックさん。
「セピア色に薄いピンクの花が描いてあるプレートです。先日、実家に帰ってそのプレートを3枚だけもらってきました。これで食事をすると実家にいるような感覚になります」
一年に一度、中身を整理するシステム手帳
メモやレシピなど、必要なことすべてを記している聖書サイズのシステム手帳。
「中の用紙に、その日の出来事も記しています。年の終わりに1年分の用紙を外して読み返し、ずっと記録に残しておきたい出来事だけを1〜2枚にまとめて書いてから処分しています」
掛け軸はどこでもつくれる“私の庭”
いろいろ処分して、いまは3つになった風景画や人物画の古い掛け軸は、大好きなもの。
「掛け軸に描かれた景色が、私の庭だと思っています。何度も引っ越していますが、必ず一緒に持っていくもの。どこに行っても、掛け軸をかければわが家だと思えるのです」
最近見つけた、お気に入りの財布
最近、とてもよい財布に出合ったというドミニックさん。折りたたんだお札と小銭、カード数枚が入るくらいのコンパクトで薄い、がま口のお財布です。
「外出時に持っていく小さいハンドバッグに入るお財布を探していたので、見つけたときはうれしかったです」
ダイニングテーブルは本当に必要か?
何年か前に手に入れた4人がけのダイニングテーブル。
「そのときはいいなと思ったのですが、パートナーと私のふたりには大きすぎると思い、近々手放そうかと思案中です」
ひとつひとつのものが必要かどうか、日々の暮らしの中で常に自分に問いかけています。
プレゼントするなら、手づくり品や実用品
「チャツネやナッツの山椒あえなど、自分でつくってみておいしかったものは、人にも贈ります。ジュースをつくったりナッツを砕いたりできる超小型ミキサーをプレゼントしたことも」
人に贈るのはどこにも売っていないものか、実用的なもののどちらかです。
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<取材・文/嶌 陽子 イラスト/須山奈津希>
ドミニック・ローホー(どみにっく・ろーほー)
著述家。フランス生まれのフランス育ち。パリ大学、ソルボンヌ大学においてアメリカ文学の修士号を取得。イギリスのソールズベリーグラマースクールにおいて1年間フランス語教師として勤務した後、アメリカのミズーリ州立大学、日本の佛教大学でも教鞭を執る。日本在住歴は40年。世界を広く旅し、特定の団体や、哲学または文化的なグループには属せずに、自分自身の内面にあるさまざまな観点に基づく意見を尊重し、それを受容することを信条としている。著書はフランスをはじめ、ヨーロッパ各国でベストセラーとなり、『シンプルに生きる』(講談社)は日本でも話題に。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです