(『天然生活』2022年7月号掲載)
無理なく実践できる「ゆる薬膳」
じめじめした梅雨。体や肌にとっては過酷な季節がやってきます。でもふだんの食事をとる際に少し意識すれば体調は整えられる、と薬膳アテンダントの池田陽子さんはいいます。
「中医学では、食材のひとつひとつに体に及ぼす作用があり、季節や体調に合わせてそれらを日々の食事に取り入れることで不調を改善できると考えられています。いまの自分の体にとって必要な食材を積極的に取り入れ、不必要なものは控える。こうした考えのもとに行う食養生が薬膳なのです」
とはいえ、池田さんが提唱している「ゆる薬膳」は決して難しいものではありません。日々の暮らしのなかで無理なく実践できます。
「スーパーの食材でOK、外食でもOK、缶詰でもOK。生薬たっぷりの本格的な薬膳料理をたまに食べるより、身近で手に入る食材を使って毎日続けるほうが大事。外食時もそのときの体調に必要な食材が入った料理を選べば大丈夫」
薬膳の考え方
薬膳の考え方の前提となる中医学の基本を押さえておきましょう。中医学では人の体は「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の3つによって構成されていると考えます。
「気」は体内をめぐるエネルギーであり、元気の源。「血」は西洋医学の「血液」としてだけではなく、全身を流れ体のすみずみに栄養を与える液体と考えます。
「水」は血液以外のあらゆる体液。内臓や皮膚、髪を潤わせ、関節や骨髄にも入って動きをスムーズにします。この3つは健康を維持するための大切な要素。それぞれが充実していて、体内をめぐっていることが重要です。
これら「気・血・水」を生み出し、代謝するのが「五臓」。
中医学では、人間の体は「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」の5つの機能によって成り立っているとされています。
西洋医学の臓器と名称はほぼ一緒ですが、その臓器が関係している働きも含めてもっと広い意味でとらえたものです。
五臓は人体の生命活動の中心であり、バランスがとれてこそ健康な体を維持できるとされています。
梅雨の不調の原因
体に湿気が入り込み、「重だるく」なりがち
湿度の高い日々が続くと体にも湿気が入り込み、余分な水分が停滞します。そのため、頭や体が重だるい、下痢や軟便、目やに、じんましん、傷が治りにくいなどのトラブルを引き起こしやすくなります。
湿気は下にたまりやすく、気分も落ち込みがちです。また、湿気は中医学で「脾」と呼ばれる消化や水分代謝の機能を弱めるため、むくみや食欲不振、体力の低下も引き起こしやすくなります。
梅雨どきの体調管理法
体の中の湿気を取り除き、「脾」を強める食材を取り入れて。冷たいものの食べすぎや水分のとりすぎにも注意しましょう。
除湿によい食材、組み合わせるとよい食材
「脾」を強め、体内の余分な水分を取る効果があるのが枝豆やそら豆などの豆類やとうもろこし、白身魚、はと麦です。
また利水効果がある食材は緑豆もやしや冬瓜、セロリ、きゅうり、アスパラガス、あさり、海藻類などがあります。
パクチー、しそ、パセリなどの香りのいい食材と組み合わせるとさらに水分を排出できます。
とうもろこしはひげごと、冬瓜はわたごと調理して食べるとより効果的。冷たいもの、甘いものは控えめに。
胃を冷やさない
チェックリスト
□ 冷えると胃が痛み、温めると楽になる
□ むくみがある
□ 舌のふちにギザギザした歯のあとがある
□ おなかが空くと胃が痛くなる
消化をつかさどる「脾」と表裏一体の関係にあるのが胃。「脾」の不調が伝わってトラブルを引き起こしがちです。
もともと「脾」の働きが弱い人が蒸し暑い時季に生ものや冷たいものを取りすぎると「冷え胃痛」になることが。
この場合は胃を温めることがポイント。にんにく、山椒、八角、クローブなどのスパイスが役立ちます。
水太りに注意
チェックリスト
□ 下半身太りしやすい
□ 食べすぎていないのに太る
□ 疲れやすく体力がない
□ むくみやすい
□ 風邪をひきやすい
□ 冷え性
水太りしやすい、あまり食べていないのに太る、むくみやすいというタイプの人は、梅雨どきにますます太りやすくなる傾向があります。
このタイプは「脾」の働きが弱く、気が不足しているため代謝が悪いことが太りやすい原因に。
年間を通じてきのこ類、豆類、いも類、白身魚、はと麦がおすすめです。水分のとりすぎにも注意。
雨の日や台風の日に調子が悪くなる人は……
脾が弱いタイプは、梅雨どきこそ対策を
「脾」は食べ物から取り込んだ栄養を「気」に変えて全身に送る働きをする、いわば生命力の要ともいえます。
「脾」が弱ると疲れやすい、だるい、朝起きられない、食欲不振といったトラブルのもとに。
脾は湿気に弱いため、梅雨どき以外でも雨の日や台風の前に頭が重だるくなったり眠くなったりしがちです。
元来、高温多湿の地に住む日本人にとって「脾」は弱点のひとつ。意識して強化しましょう。
<監修/池田陽子 イラスト/升ノ内朝子 取材・文/嶌 陽子>
池田陽子(いけだ・ようこ)
薬膳アテンダント。国立北京中医薬大学日本校卒業、国際中医薬膳師資格を取得。ふだんの暮らしの中で手軽に取り入れられる「ゆる薬膳」を提案。著書に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局)ほか多数。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです