(『天然生活』2022年10月号掲載)
自然に寄り添う「自然栽培」の米づくり
お米自体について知るために、野村さんが気になっているお米の生産者、「蒜山耕藝(ひるぜんこうげい)」の高谷裕治さん・絵里香さん夫妻を訪ねました。
「彼らのお餅を食べ、そのおいしさに感動して。会いに行ったら誠実に米づくりをされていて、生き方や考え方に共感しました。一点の曇りもないような人柄も、とても素敵なんです」(野村さん)
訪ねたところ
蒜山耕藝
高谷裕治さん・絵里香さん夫妻によるユニット。米と野菜の自然栽培から販売まで行う。田畑の情報が届く「小さな農民の会」Bコース会員を随時募集中。蒜山耕藝
高谷さんたちの拠点は岡山県の蒜山。山の四季を間近に見る静かな場所に、青々と美しい田んぼが広がっています。
ふたりとも出身は東京ですが、水のよさと自然が手つかずのまま残るこの土地に魅力を感じ、2011年に移住。自然に寄り添う「自然栽培」の米づくりを実践しています。
さっそく田んぼを案内していただきました。
「自然栽培とは、土地にはみずから命を育む力がある、と考える農法です。農薬や肥料を与えず、土地がもつポテンシャルを引き出すことで実りを豊かにしていく。僕たちの田んぼでも、収穫量は年々上がっています」(裕治さん)
とても大変そうに聞こえますが、「それほどでもない」と裕治さん。
農薬や肥料を使わないぶん労力は減るし、ほかの作業も、農薬や肥料を使う慣行栽培の米農家とさほど変わらないのだそう。
「大変というよりも、自然栽培だからこその難しさは感じています。方法が確立されていないので、選択肢がたくさんあるんです。日々、稲や田んぼの状態をじっくり見て、自分なりに仮説を立てる。最良だと思う方法を試し、結果から次を考えていく。難しいけれど面白いです。でも、最初の7、8年は収穫量が少なくて苦しかったです。100年という人間の時間軸と、何億年という自然の時間軸は、どう考えても違う。自然の時間軸にどこまで合わせられるのか、試されているような気がしました」
絵里香さんも、「当時は一般的な収穫量の半分以下で……。もともと慣行栽培をしていた田んぼだったので、農薬や肥料が抜けるまでは時間がかかるとわかってはいたけれど、長かったです。あと、農家さんなら皆同じだと思うけれど、日々、自然に合わせて生きていくという大変さはあります。何が起こるかわからないから、予定を入れられない期間がけっこうあるんです」
〈撮影/今津聡子〉
野村友里(のむら・ゆり)
長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。ケータリングやイベント、ラジオ、出版など幅広く活躍。2012年原宿に「restaurant eatrip」を、19年表参道に「eatrip soil」をオープン。EATRIP JOURNAL
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです