“縁”ある場所との出合い
店をはじめたばかりの頃、近所を自転車で走っていて、急に「ここ!」と思って立ち止まったことがあります。
すかさず住所をメモして、家に帰って探したら、イメージ通りの物件が出てきて内見、すぐにそこに住むように。
住む場所ってご縁なんですよね。こういうことは頭で考えてもうまくいかなくて、ちょっとぼーっとしているくらいのときのほうがいい予感を拾えたりするような気がします。
そこに行ったらわかるだろうな、うまくいくならトントンと進んでいくだろう。
移住先を探すというとおおごとのようだけど、わたしの場所探しは至って呑気に進んでいきました。
ただ、空港の近くにあること。
飽きっぽくて、ひとつのところでじっとしているのが苦手なわたしにとって、これだけが譲れないポイントでした。
人が繋いでくれるもの
「北海道に移住したいんです」。そう、何人かの方に相談させてもらいました。なんとなくの人選でしたが、今思えば皆、移住経験のある先輩たちでした。
なかでも、シャンディ ニヴァ-ス カフェの坂本圭司さんがいなかったらわたしはこの場所にたどり着けなかった気がします。
そのシャンディのお店のある長沼町は、新千歳空港から車で20分。空港と札幌の間にあります。
なぜか、行くたびに晴れました。
「強引に晴らしたね……」
朝は土砂降りでも暴力的に晴れるから、いつも車を出してくれていた幼馴染が笑うほど。
あまりに毎回だから、やがて「呼ばれてる……?」と言い合うように。
妄想が止まらない
いつも見ていたサイトに、気になっていたその土地に空き家が出たのが2023年のはじめ。長沼町は移住者の多い町で、なかなか空き家が出ないのです。
ここならやりたいことができそう! わたしは石垣島をひとりで旅していて、興奮して眠れなくなったのをよく覚えています。
やっと見に行けたのは夏でした。
なんといってもその古いおうちが有する森の、木に惹かれたのです。
そう、ずっと、いろんな土地を見ながら、木を見ていました。
自分の中にあった場所のイメージと照らし合わせていたのですが、土地と植生は切り離せないものだから、今思うとこれはなかなかよい指針だったような気がしています。
森に囲まれたその家は世界観を作りやすそうで、東京の製造拠点をキープしながら2拠点にするイメージもしていたから、夏だけ動かす? なんてどんどん妄想を広げていきました。
わたしの気持ちはほとんど決まっていましたが、その土地、なんと2000坪。
家は古く、このままでは冬はとても住めないだろう。工事をするならかなりお金がかかりそう。夏は草むしり、冬は除雪、住まわないなら余計に管理が大変。
相談していたプロの友達が、見かねてやめたほうがいいと思う、かなり大変だよ!と連絡をくれました。彼女が言うなら絶対にそうなのです。
でも、申し込んだ!のでした。妄想が止まらなかったのです。
友人は笑って言いました。
「なおちゃんってほんと、ルフィだよね……」
そうして、1年前に伝えなくてはならないルールの今のアトリエに1年後の退去を申し込んだ。
のですが、あっけなく別の方に買われてしまいました…!
あれ、ふりだしにもどってる……というか、これってけっこうまずい状況なんじゃない?
1年後までに場所を探せるのか??
藤原 奈緒(ふじわら・なお)
料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。共著に「機嫌よくいられる台所」(家の光協会)がある。
インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
webサイト:https://nichijyoryori.com/
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