(『天然生活』2023年11月号掲載)
夫が亡くなり、娘の家族と暮らすことにしました
以前、「私らしく、歳を重ねる」のテーマで取材した祐成陽子さん。赤い眼鏡がトレードマーク、フードコーディネーター養成学校の校長先生。
84歳のいまも、現役バリバリ、アクティブに活動しています。取材当時、「もうすぐ自宅で、糀をテーマにしたカフェを始めるのよ」と愉快そうに話していましたが、あれから約2年、暮らしはどう変化したでしょう?
引っ越しのたびに持ち物を減らして身軽に
「住まいも暮らし方もまた変わって、いろいろコンパクトになりました。念願のシンプル生活です。いまの私の部屋、ちょっと面白いから見にいらっしゃれば?」
2年間で2回の引っ越しをした祐成さん。いまは、娘で料理家の祐成二葉さん家族と、教室近くの一軒家に暮らしています。
最初はマンションへの引っ越し。
「2階建て住居の1階をカフェと教室に開放して、いつも誰かしらが家にいる状態に。なんだか落ち着かなくて、自分の居場所もないように感じたんです。それで、前から住んでみたかったマンションにちょうど空きが出たので、夫と引っ越しをしました」
一軒家からマンションへの引っ越しで、1回目のダウンサイジング。大勢の生徒を抱え、フードコーディネーターの第一線で働いてきたのだから持ち物はそれなりにありました。
でも、今後の人生にあれもこれもは必要ないのでは? そんな思いで、服や器、道具などを思い切って整理。「夫婦で45Lのごみ袋50袋分ぐらいは手放した」と振り返ります。
「80歳過ぎて、引っ越しなんてと驚かれるけれど、全然苦ではありません。変化が好きなんです」
動くたびに、ものの見直しをし、生き方について考え、人生をブラッシュアップしてきたのです。
さて、念願のマンション暮らしではありましたが、住んでみたらしっくりいかなかったようで……。
「実は人見知り。エレベーターや玄関先などで、住人の方と会ってあいさつしたり、世間話をしたりするでしょう? それが少し負担に感じてしまったんです」
やっぱり家に戻ろう、そう考えて計画を立てているうちに、突然、悲しい出来事に見舞われました。
夫の「見送り」も自分らしくコンパクトに
60年間連れ添った夫の死です。ある晩、いつもより疲れた様子で床についた夫は、起きてこないまま旅立っていったのです。
「87歳、大往生だったと思います。生前から話し合っていて、戒名も人に頼まず、自分たちでつくって決めていました。お葬式は家族だけの小さなものにして、対面する悲しい場面を最小限にしたのです」
そんなふうに「悲しくならない工夫」をいろいろしたという祐成さん。生前、精一杯楽しい時間をともに過ごしたという自負があるからこそ、周囲の心配をよそに、すっぱりと気持ちを切り替えることができたといいます。
「くよくよしていたら自分が生きにくくなるでしょう」
そうして、夫と暮らしていたマンションを出ることになりました。娘と孫が住んでいる一軒家をリフォームして、そこに移ることにしたのです。80代、2回目のダウンサイジングです。
これが最後の引っ越し? 元風呂場の小さな暮らし
「元は私たち夫婦が住んでいた家なのだけど、娘たちに貸していました。お風呂がすごく大きな家で、このお風呂を改修して部屋にできるのでは? と思いついたんです」
元風呂場は祐成さんの部屋へとリフォームし、物置だったスペースに浴室を、その隣に自分専用のトイレも新設しました。
「階段の昇り降りはキツいから、トイレもお風呂も部屋から3歩のところにまとめました」
ということで、いよいよ新しい部屋へと案内していただきます。広さは3畳ほど、それに階段下の空間を加えたスペースが祐成さんの居住スペース、小さな城です。
中央にでんと置かれたベッドは、夫の実家があり縁の深い、飛騨高山の家具職人にオーダーしたもの。ふとんをはがすと、畳一枚が敷いてあり、畳の上でくつろげ、気分転換ができるようになっています。
ベッド横の窓際には、独自の仏壇コーナーが。若いときの夫や自分の写真、小さな木彫りの仏像がしつらえられています。
「いわゆる仏壇は、私には必要ありません。遺影も最近のものではなく、若いときの写真。夫が楽しくハツラツと過ごしていた山での写真を飾っています」
「こうでなくては」というルールに縛られず、自由な発想だからこそ、ミニマルな暮らしを楽しんでいるのかもしれません。
ベッド脇はオープンの棚をつくり、その中に、引き出し収納ボックスを並べました。半透明なので圧迫感がなく、ポリプロピレン製は軽く、引き出しもなめらかです。
「服はここに入るだけの量に。結婚式やお葬式用など、いろいろな洋服を持っていたけれど、もうこの歳になるんだから、お葬式は行かないで失礼しようと思って。結婚式もお祝いは差し上げるから、式は遠慮するわっていっているの。パーティの服も然り、全部手放し、半分以下の量にしました。だっておばあさんがいろいろ着替えたって、誰も見ていないわよ!」
階段下には真っ赤なレザーソファを置き、ここで本を読んだりテレビを見るのが楽しいひと時。
「ベッドとソファはよいものにして、要所要所に好きなものをちりばめていれば、狭くても心地よく過ごせるんじゃないかしら」
手放したといえば、商売道具ともいえるキッチンツールも自分専用のものはほとんどなく。
「引っ越してくるときに、ごはんは一切つくらない」と宣言し、日々の料理は娘の二葉さんがつくってくれているのだそう。「だって、もう小さいときからさんざんつくってきたんだから」と笑います。
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<撮影/近藤沙菜 取材・文/鈴木麻子>
祐成陽子(すけなり・ようこ)
東京・四谷にあるフードコーディネーター養成スクール「祐成陽子クッキングアートセミナー」校長。現在は、マンツーマンのレッスンのみ開校。元自宅の古民家で娘の祐成二葉さんを中心に「糀カフェ2539」を開いている(インスタグラム@kojicafe2539)。カーブキッチンバサミなど、キッチンツールの開発も。https://www.sukenari.co.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです