信州の知恵を生かし、冬の食卓にも華やぎを
長野駅前から見える北信濃の山々が、少しずつ色づき始めたころ。横山タカ子さんのお宅を訪ねると、テーブルには、あけびがたっぷりと入った果実酒のびんがふたつ、静かに置かれていました。
「庭でとれた白あけびなんです。毎年たくさん実ってくれるから、ただ食べるだけじゃなく、お酒に漬けて楽しむんですよ」
そんなふうに横山さんは、四季の恵みを味わいながら日々、保存食を仕込みます。それは翌朝、3カ月後、ときに1年後と、その先の暮らしをよりよく生きるための「貯金のようなもの」だとか。
「とくにこれからの季節、あたりは実りの時を終え、色をなくしていきますが、昔ながらの信州人の食卓は意外なほど華やいでいるんです。たっぷりと漬物を漬け、白菜は軽く干し、根菜は土にいけて……と、万全の準備で冬を迎えますから」
そうして備えた品々を、飽きがこないよう食べ回すのも、暮らしの知恵であり楽しみのひとつ。
「たとえばお漬物は、発酵でうま味を増した“調味料”だと考えると、アレンジの幅がうんと広がります。ほかの野菜とあえたり、塩ねぎのようにお肉と合わせてもいいですね。
甘酒も、ただ飲むだけじゃもったいない。サラダにふりかけたり、お肉の漬け床にしたり、デザートの甘みづけに使ってやさしい糖分を体に取り入れれば、ほっといやされ元気が湧いてきます」
そして信州といえば、お茶請けにも保存食が欠かせません。こたつの上に甘いりんご煮から漬物、煮物までずらり並べて楽しむひと時は、寒さが与えてくれる贈りもののよう。
「厳しいながらも冬が待ち遠しいと思えるのは、保存食があるからこそ。時間が育んでくれる味は深く、格別にいとおしいものです」
〈撮影/本間 寛 取材・文/玉木美企子〉
※ 本記事は『横山タカ子さんの和のある暮らし』(扶桑社)からの抜粋です
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人にも、環境にも心地よい。「和のある暮らし」をご一緒に。
信州に生まれ育ち、ずっと暮らしてきた料理研究家・横山タカ子さんの、四季の自然に寄り添った、小さいけれど奥深い暮らしをご紹介します。
横山タカ子(よこやま・たかこ)
保存食を中心とした長野の食文化を研究。旬の食材を生かすシンプルな料理にも定評がある。著書に『私の木の実料理 』『私の梅仕事』(いずれも扶桑社)などがある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです