(天然生活2022年2月号掲載)
おおらかな里山に移住し、暮らしと料理を楽しむ日々
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
「こんなに自分が田舎暮らしに向いていたなんて、びっくり」と笑う、「かもめ食堂」の船橋律子さん。
兵庫県は、自然豊かな黒田庄町。ここは、仕事に追われ体調不良を繰り返してきた船橋さんが、自分らしい暮らしを見つめ、大好きな料理の仕事を続けていくために決断した、新しいステージです。
初秋、築約40年の一軒家に家族とともに移り住んだ船橋さん。フローリングの貼り替え、壁の漆喰塗り……。できる限り自分たちでも補いながら、新たな住まい兼仕事場を少しずつ整えてきました。
「山のふもとで周りにお店もないので、もっとさみしくなるかなと思っていたのに、全然! 食堂のメニューを考えたりお菓子をつくったり、毎日が楽しくて楽しくて」
移住して、「ますます料理に向き合っている」と話す船橋さん。
「とにかく野菜が新鮮でおいしいから、ちゃんと生かしてもっとおいしく料理できないかなって。たとえば大根葉は、ふりかけにしたり彩りに使っていましたが、メインの肉巻きやミンチカツにも使えないかなと考えたり。こっちに来て、新しいレシピが増えましたね」
のどかな風景を見渡せる広い庭も、船橋さんの元気の源。「柿とみかんの木の近くにいちじくも植えて、小さな果樹園をつくりたい。梅の木もあるので、梅干しも漬けたいな」と、楽しみは尽きません。
「ゆくゆくは畑もしたいと思っています。でもいまは、それより料理。おいしい野菜をつくってくれる人がたくさんいるので、私は料理でここの食材を循環させていきたい」
地元の人が温かく迎え入れてくれたことも、この土地の恵みと向き合う活力になっているよう。
「みなさんすごくやさしい。ピーマン、唐辛子、さつまいも、すだち、いただきものがいっぱいです。“かもめが山に来たんか”と、オープンを楽しみにしてくださっていたことが、うれしかったですね」
12月にいよいよ再始動した「かもめ食堂」。当分は「仕事に追われることがないように」イートインと通販だけのスタイルに。でも充電が完了したら、新しい試みが始まりそうな予感もします。
地元の果物を使ったスイーツが登場したり、保存食を仕込む会を開いたり、“里山暮らしのおすそわけ”のような、ゆるやかで楽しい試みが。
かもめ食堂・船橋さんの移住先での新しい試み5つ
船橋さんの新しい試み01
家族とともにくつろぐゆったりとした時間
六甲店のときは「毎朝3時に出勤していた」という船橋さん。移住先は同じ敷地に店と住居があるため、「今度は家族と過ごす時間が増えそう」とうれしそうです。
パートナー、犬1匹、猫4匹、そして以前は離れて暮らしていたお母さまも呼び寄せました。
「家の中も外もまだまだ手直ししないといけなくて、やることいっぱいです。でも、気持ちが満たされているからか、毎日ごきげんですね」
船橋さんの新しい試み02
地元の旬野菜から新メニューが
車で20分の産直販売店へ行くのは、移住後の日課であり楽しみのひとつ。
採れたての野菜や果物を手に取り、「元気な素材に出合うとやっぱりやる気が出る」と船橋さん。ときには、生産者の方から料理のヒントをもらうこともあるそう。
「先日、丸大根を見ていたら“すぐにやわらかくなるしおでんには向かないよ”と教えてもらい、スープに使ったら、さっとつくれてすごくおいしくできました」
〈撮影/竹田俊吾 取材・文/山形恭子、鈴木理恵〉
船橋律子(ふなはし・りつこ)
「かもめ食堂」店主。兵庫県の神戸元町、六甲を経て、2021年12月に西脇市黒田庄町に移転オープン。著書に『六甲かもめ食堂の野菜が美味しいお弁当』(誠文堂新光社)。
https://kamomeshokudo.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです