(『天然生活』2021年3月号掲載)
自分のための雛祭り
節分が過ぎ、梅の花がチラチラと咲き始めるころ、「だいどこ道具ツチキリ」ではディスプレイ替えが行われます。
店の各所に小さなスペースをつくり、そこにコレクションの豆雛をしつらえるのです。
張り子の豆雛は棚の上に、段飾りはテーブルの上に......と、毎年、お雛さまを据える場所はさまざま。
なんせ、手のひらサイズですから、飾り場所はわりと自由。出す作業も手間もわずかです。
「昔からミニサイズで精巧につくられている道具が好きなんです。本物をそのままぎゅっと小さくしたような人形や道具は毎年、並べるたびに『よくできているなあ』と感心してしまいます。ただかわいいだけではない、観察する楽しさ、集める面白さが豆雛にはあるように思えます」
始まりは、十数年前に娘の初節句で買った貝合わせ雛。
ツルンと高貴な顔立ちの「いわゆる」なお雛さまではないものを求め、東京・浅草の江戸趣味小玩具の店「助六」で買いました。
娘のために買った貝合わせ雛

はまぐりなどの二枚貝は、身とふたがぴったり合うため古来より夫婦円満の象徴とされ、雛飾りに登場することも。貝に蒔絵を施し、お雛さまとお内裏さまをのせた豆雛は、土切さんが十数年前に娘の初節句のために購入。
「あまりの小ささで、家族にも『これで本当にいいの?』と何度も聞かれたのですが、このちんまりとした感じが本当に好みで」
サイズはミニでも存在感は抜群。これをしつらえただけで、空間がふわっと華やかに、めでたくなる力があり気に入っているのでした。
次にやってきたのが、陶器の段飾りのお雛さま。
卓上サイズの段飾り

明治~大正時代の薩摩焼の陶製豆雛。インターネットオークションで探した。段が付いていなかったため、木材を組み合わせてつくり、フェルトを貼り、毛氈(もうせん)のようにした。菱餅や椀など、別途買い足したものも。
「娘が雛祭りの歌を口ずさみながら『五人囃子ってなあに?』と聞いてきて。やっぱり三人官女も右大臣、左大臣もそろっていないとダメか......と思ったんです」
ここでも、探したのは豆雛。桜を描いた小さな屏風や、人間の顔をした狛犬など、それぞれ小さいながらも物語が感じられ、見ていて飽きないかわいさがあります。
毎年、桃の節句にはこの2点を飾り、娘の成長を祝ってきた土切家。それから年を重ね、暮らしのなかでの雛祭りへの思い入れも変わってきたといいます。
季節の節目を祝う、自分のための行事に
「娘が大きくなって、雛祭りの存在が少し遠くなったというか。そんなときがしばらく続いたのですが、お店を始めたことで、季節のしつらいも意識するようになりました。新たに張り子のお雛さまを入手したこともあり、私のコレクター癖みたいなものがムクムクと顔を出しまして......」
アトリエおはようの張り子雛

張り子の技法を使い創作活動をする「アトリエおはよう」のほのぼのお雛さま。「かわいいとひと言で表現できない不思議な世界観が魅力」。さまざまなモチーフを蒐集中。おめでたい柄のてぬぐいを壁にたらし、背景に。
今度は自分のために。季節がめぐり、こうして健やかに年に一度の再会が果たせたことを喜ぶ儀式へと雛祭りはなりました。
小さなお雛さまを並べる、その時間がいとおしいのだそうです。
コレクター魂に火のついた、アンティーク雛

まん丸のお顔に小さな目鼻で、とぼけた風情の木製雛
一番の大物もネットオークションで入手。
「好きなお雛さまは顔がリアルでないところが共通しています。こちらは『ちびまる子ちゃん』みたいな雰囲気ではないですか? かわいいけれど、品がいいところがお気に入り」

まとめて茶箱に入れて天袋に収納。場所をとらないのが魅力。「小さな道具を1個1個薄紙にくるんでしまう作業も楽しい」

豆雛コレクションに新たに加わった、ミニチュアお菓子。小さいもの好きの土切さんの蒐集欲が刺激される
<撮影/砂原 文 構成・文/鈴木麻子>
土切敬子(つちきり・けいこ)
東京・井の頭公園にある『だいどこ道具ツチキリ』店主。自身が日々使って「いい」と思った台所道具を販売。インスタグラム@daidoko_tsuchikiri
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです