(『天然生活』2022年1月号掲載)
楽しみながら引き継いで10年後も心地よい暮らし
家族と笑ったり、ケンカしたり、ほっとしたり。
なんでもない毎日こそ、かけがえのないもの。そう実感できる家をつくりたい。
シンプルだけど、愛着がわいて、住み継ぎたくなる家。建築家・和田純さんはそんな思いで、無垢の木の家を設計してきました。
「いずれその人が家を出ても、壊されず、だれかが引き継いで住みたくなる、価値ある家。無垢の木なら、それがかなうと思うんです」
本物には価値がある。和田さんは自然素材でていねいにつくられたものが好きで、若いころから愛用してきました。
「革の財布やバッグはオイルを塗って、無垢の木の家具や床にはみつろうを。ほんのひと手間で、美しさが増していきます。経年変化が感じとれて、長く使え、環境に負荷がかからない。だれかに譲り喜んでもらうこともできる。いいものを長く使うことは、みんなにとってハッピーなことですよね」
和田さんは拾ったもの、もらったものも上手にミックス。食器棚は学生時代に拾って、ずっと現役。解体現場で気になるものを見かけたら声をかけて譲ってもらう。
何でも引き取るのではなく、一緒にいたいものだけ。どう使おうか、楽しみながら使い続けます。
トム・ソーヤやハックルベリー・フィンが好きで、秘密基地が憧れだったという和田さん。自宅近くに小さな古い家を手に入れ、1年半かけてセルフリノベーション。
愛情を込めて「小屋」と呼び、昨夏から日常で使っています。
「簡素な設備ですが、いつかひとりでコンパクトに暮らせるくらいには整えました。仕事に集中したいときこもったり、お茶だけしに来たり、妹家族や友人も泊まりに来ます。ここは、何もないのがいい。遠くの別荘よりも、近くの二拠点が自分には心地よいです」
仕事を始めて25年、仕事の流れを少しセーブし、これから和田さんはひとり住まい、ふたり住まいの、コンパクトな無垢の木の家を提案していきたいそう。
「一から家をつくるのはエネルギーがいるけれど、設計プランがあればもう少し気軽になる。小さな家を自然素材でつくりたい方がきっといると思って」と、和田さん。
小さくとも豊かな家に暮らせたら、毎日が幸せです。
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愛猫2匹がいやし。撮影終盤に出てきてくれたこはる、むぎは隠れたまま。「寝ているところに来てくれるとうれしいです」
工夫
人生を豊かにする小さなはなれを持つ
長らく空き家だった小さな家を手に入れてセルフリノベ。
共同で別荘を持つことに共感してくれた人とシェアして使う。
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1階が10畳ほどの、まさに小屋。ごろんと寝転べるお気に入りのソファを置いた、ひとりになれる場所
「ずっと隠れ家が欲しかったんです。午前中に家で仕事して、午後から日没までここで大工仕事。DIYが好きなので無心になれて楽しかったです。友人と過ごしたり、ひと息ついたり、リタイヤ後の夢じゃなく、いまかなえられてよかったです」
暮らしの大事なゆとりに。
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はなれの台所。ステンレスの天板だけ「ツールボックス」でオーダー。オープン棚はホームセンターで手に入れた材料でDIY。タイル貼りや壁の漆喰も友人と
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はなれに泊まる友人には、本を一冊寄付してもらい、自由に読めるように
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大きな窓いっぱいに緑。ロケーションが気に入り、古い家を引き継いだ
<撮影/わたなべよしこ 取材・文/宮下亜紀>
和田 純(わだ・じゅん)
設計事務所「春はる摘つみ」主宰。最近では『ゼロ・ウェイスト・ホーム』で知られる翻訳家・服部雄一郎さんの住まいを設計。住み継がれる家を目指す。インスタグラム@hal_08032
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです