娘の力を引き出した先生の一言
たとえば、現在は運動部のマネージャーとして青春を謳歌している娘ですが、自分から入部を希望したのではなく、きっかけは、顧問の先生からスカウトされたことでした。
そのとき「きみには人を観察する力があるから」と言っていただいたそうで、その言葉が娘の心を動かしたのではないかと推察しています。
その話を娘から聞いたとき、「よくぞ、わが子のそこを見抜いてくださいました、先生!」と、わたしまでうれしくなりました。
きょうだいがいないため、大人に混じって過ごす時間が長かった娘には、場の空気を読む力があると、わたしも夫も日ごろから感じていて、本人がいないところでは、よくそんな話をしていたのです。けれど、その部分をわざわざ本人に向かってほめるような機会はありませんでした。
そこへ中学校の先生が、「観察力がある」というわかりやすい言葉で直接評価を伝えてくれたと聞いて、なるほど、そういうほめ方があったかと、ひざを打つ思いでした。
誰かの会話を聞きながら、そこに漂う空気を敏感に察知する(してしまう)性質を、きっと娘も自覚していて、しかしそれは学校のテストの点数として表れる能力でもなく、同じ年齢の友だちが気づいてくれるほどわかりやすい長所でもない。そういう部分を、学校の先生が「マネージャーに向く適性」として見抜いてくれたことは、おそらく本人としては相当うれしかったことでしょう。
他者から認められたという自信が、置かれている立場で存分に力を発揮できることにもつながる気がします。
こうして書いていると、これは子どもや学校に限らず、大人の職場にもそのまま適用できそうな話です。
つまり、ほめ言葉の威力は、本人が認められてうれしい部分にかけてもらったときに最大効果を発揮する、ということ。家族をほめるにしても、日ごろから相手をよく観察して、本人が潜在的に好きそうなこと、得意そうなことを見極め、そこをカジュアルにほめるのがいいようです。

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note、Voicy、インスタグラムで人気のエッセイストが綴る、人間関係をスムーズにする気持ちの伝え方
仕事、子育て、夫婦、SNS……。私たちは日々の暮らしのあらゆるシーンで、相手に自分の意見や気持ちを伝えています。しかし、「自分は伝えるのが上手だ」と言える人はあまりいないのではないでしょうか。
数多くの暮らしにまつわる著作があり、note、Voicy、インスタグラムなどでも女性を中心に熱い支持を得ているエッセイストの著者が、これまでの半生を経て身につけてきた伝え方のコツを1冊にまとめました。読めば、自分も相手も気持ちよく暮らすための処方箋になることでしょう。
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト。1972年生まれ、千葉県出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業後、出版社勤務を経て、2001年よりフリーランスに。ファッション誌のエディター&ライターとして活動したのち、現在は著作やnoteをメインに執筆を行っている。また、音声プラットフォームVoicyで「家が好きになるラジオ」のパーソナリティーを務めるほか、イベントやワークショップ、講演など幅広く活動中。
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