(『天然生活』2019年11月号掲載)
父がつくり、母が愛した台所を受け継いで
夏の名残がまとわりつく、暑く晴れた日に取材に伺いました。
「エアコンがなくて少し暑いかもしれないけれど……」と私たちにうちわを配り、この夏仕込んだという梅ジュースを「まあ一杯どうぞ」と勧めてくれました。
「エアコンがないのがここでのおもてなしだと思っているんです」
夏は暑く冬は寒い。季節の起伏を体感し、食べ物やしつらいなどで乗り切る工夫をする。それが、いま豊村さんが大切にしている暮らしです。

「無添加の自然な食べ物で体を満たしたい」と豊村さん
岩手県・一関の駅から車で10分。丘の上に立つ木造の日本家屋は、トタンでふいた黒屋根と白壁のコントラストがキリリと美しい一軒家です。目の前には果樹が連なる、のどかな風景の中にあります。
生まれ故郷を離れて数十年、長らく東京に暮らし、料理の仕事に邁進していた豊村薫さんがこの地に戻ってきたのは昨年のこと。
「45年前に父が独学で設計し、中尊寺の宮大工に頼んで建てた家は、隅々まで父のこだわりと母の思い入れが詰まっていました。
秋田杉、檜、桜、桂など東北産の木材をふんだんに使い建てられた家は、無添加という私の料理のテーマとも添い、とても心地よいものに感じたのです。だから、手を加えることはせず、このままをひっそりと修繕しようと決めました」

宮大工が製作したリビングの立派な食器棚
暮らしの基本となる台所も形を変えず、シンクやコンロなどを使いやすいよう更新するにとどめました。
シンクや調理器具以外はほとんどが木材という、木に包まれ温かな雰囲気が漂う台所です。
気をつけたのは、シンクを大きくとることと、作業スペースを広く確保すること。

シンクや作業台以外は、素材の多くに木を使った台所。リフォームを担ったのは、architect atelier ryo abe+2.5 architects
「シンクが深く広いと、大きなお鍋や野菜もストレスなく洗えて、水はねもなし、調理の動線もスムーズになります。私はコンロは2口でいいと思っていて。
3口以上あったとしても、そんなにお鍋やフライパンを同時には並べられないですよね? だからコンロは2口にして、サブの調理器具(カセットコンロや電気調理器)を活用するのがいいと思っています」
〈撮影/萬田康文 取材・文/鈴木麻子〉

豊村 薫(とよむら・かおり)
料理作家、国際中医薬膳師。無添加をテーマに体が喜ぶ料理を提案。岩手県・一関在住。主宰する「薫風農園」のサロンでランチを供する活動や、年に数回、東京で料理教室も。https://kunpu-noen.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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天然生活2025年5月号では、台所の特集をしています。ぜひあわせてお楽しみいただけましたら幸いです。