(『天然生活』2019年11月号掲載)
年を重ねてたどり着いた、引き算の潔い料理
日の出とともに目を覚まし、夜は早々に寝床に入る豊村さん。1日の大半をキッチンで過ごします。
「家にはキッチンと寝室さえあれば十分というくらい、私にとって大事。寝室と同じように休める場所であり、夢を見られる場所なんです。目の前の食材が料理へと変化していく様子はとてもクリエイティブではないですか?」
夢見るキッチンのなんといっても素晴らしいところは、窓の外に広がる竹と檜の林。
「台所に立っていると、裏山を横切るカモシカやうさぎと目が合うなんてこともしょっちゅう。最高でしょ! この贅沢さは、東京の暮らしがあったから気づけたことかもしれませんね」

窓から見えるのは裏山の美しい竹林
一関に移って実感しているのは食材の近さ。
自分でも無農薬の畑づくりに挑戦していますが、おすそわけで頂いたり、道の駅で手に入れたりと、食材と産地が近く、それらが生まれる背景がきちんと見えています。
「素材の力が強いから、いまの私の料理はあまりつくり込まないほうにいっています。
人生は年を重ねるほどにいろいろ引き算になっていき、料理も同じ。調味料をいっぱい入れたくなる時期があるけれど、それは若いときと自信がないとき。
私はその時代は終わったかしら。味見もそんなにしないんです。とにかくシンプルに。あれこれ足しても素材の味を超えることはないと思っているから」
ライフワークとして掲げているのは、季節の食材を干したり漬けたりの季節の仕事。漬物名人の母の仕事を継ぎ、旬のおいしさをせっせとかめに閉じ込める日々です。

乾燥する時季におすすめという参鶏湯。朝鮮にんじんや当帰などの生薬が入り、体の内から温め、潤してくれる

出窓には梅干しや漬物、果実のシロップなど、保存食が並ぶ。「保存食づくりはライフワークです」
〈撮影/萬田康文 取材・文/鈴木麻子〉

豊村 薫(とよむら・かおり)
料理作家、国際中医薬膳師。無添加をテーマに体が喜ぶ料理を提案。岩手県・一関在住。主宰する「薫風農園」のサロンでランチを供する活動や、年に数回、東京で料理教室も。https://kunpu-noen.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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天然生活2025年5月号では、台所の特集をしています。ぜひあわせてお楽しみいただけましたら幸いです。