(『天然生活』2020年9月号掲載)
子どもも一緒に使うから、手が届くところを定位置にしています
世界遺産・石見銀山とともに栄えてきた山間の小さな町、島根・大森で生まれ育った松場奈緒子さんは、東京でパタンナーとして働いたのちに結婚し、2012年に故郷へ戻ってきました。
現在は、5人のお母さんとして奮闘中です。
小学4年生の長男・公汰くんは釣り好きで、みずから魚をさばき、炭火で焼くほどのスキルの持ち主。夫の忠さんも好んで料理をするので、台所の入り口に家族みんなのエプロンがかけてあります。
「長男は料理好きというより、サバイバル好き。魚の扱い方は町のヒーロー的な存在の釣り名人に教えてもらいました。いまでは母にならってかまどでごはんも炊けるんですよ。私が教えたのはお米のとぎ方くらい。長男が小学1年生のときには、私が仕事で帰宅が遅れたら自主的に炊いてくれて。頼もしかったですね」

長男・公汰くんがはき古したジーンズにミシンをかけて、エプロンにリメイク。ものづくりが生活に根づく
いまでは上の子が下の子に教え、できるようになったら妹や弟に教えて。食事の準備も、おつかいの行き方も、リレーのように伝わっています。
この日、松場さんがクレープを焼き始めると5歳の次男・大志くんが器を並べ、ジャムを塗って盛りつけてくれました。

登校中の兄に代わり、次男・大志くんがクレープづくりのお手伝い。エプロンや三角巾は奈緒子さんお手製
「うちはお客さんが多いので、もてなし力が自然と身につくのかもしれません。子どもたちはお手伝いすると『お母さん、助かった?』って聞きに来るんです。役に立つ、喜ばれることがうれしいんですね」
松場さんは自宅に遊びに来た知人にも台所に立ってもらうそう。定番は餃子。一緒に手を動かすうちに距離が縮まって、家族ぐるみのおつきあいになれるといいます。
「一緒に楽しめて、笑顔でいられる。お客さんもちょっと手伝うくらいの方が気を使わなくてすみ、居心地よく過ごせると思うんです」
松場さんが笑顔でいれば、家族もうれしい。お客さんもくつろぐ。一緒につくって食べて、台所はみんなの心をつなぐ場所です。
松場さんの台所を拝見

1 調理台まわり
調味料はコンロのそばに。
「子どもと食べるのでスパイスは使わず、シンプルに。昔ながらの製法の、隠岐の海士乃塩や喜界島のざらめ糖などを」
レンガは耐水性、耐熱性に優れ、手がかからない。

古道具の洗濯物干しを活用。帳面は近所の商店で使う「御通帳」。買い物をしたら書きとめ、月末に精算。
子どもたちもこれを持っておつかいに。

道具と御通帳は吊るして管理
子どもの食器はステンレス製のカップやホウロウのトレイを愛用。
キャンプ気分で食卓が楽しく、割れる心配もなし。

次女・奈々ちゃんも洗いものでお手伝い
よく使う料理道具は出しておくのが松場流。おばあさまから譲り受けた吉岡鍋は蒸し器にもなり、オーブンでも使える。
お菓子のかごは子どもが届かないレンジフードの上に。

包丁はさっと使えるように、マグネットラックに。
調理台に奥行きがあるので小さい子は手が届かない位置で安心。収納しながらしっかり乾燥。

包丁は貼り付けていつでも清潔に
窓辺には、産直市でたくさん買ったパセリや水栽培して2度楽しむ豆苗などを。
子どもが摘んだスミレやシロツメクサ、拾った石ころもここに。

<撮影/森本菜穂子 取材・文/宮下亜紀 イラスト/須山奈津希>
松場奈緒子(まつば・なおこ)
文化服装学院卒業。現在、両親が創設した石見銀山生活文化研究所で「群言堂」に勤める。島根・大森町の子育て支援サークル「森のどんぐりクラブ」で放課後子ども教室も運営。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです