(『天然生活』2024年5月号掲載)
捨てない・分類する・とっておく。
林さんが大切にしてきた、豊かな人生のルール
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※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
東京・田園調布の住宅街の中にひっそりと佇むレバーパテと総菜の店「パテ屋」。
自宅の一角に店を開いて50年、86歳になる店主の林のり子さんは、看板商品であるレバーパテや、ポークリエットなど、素材のうま味を生かした商品をつくりつづけてきました。
店の奥の部屋は林さんの仕事場であり、スタッフたちと食事や作業をする場所でもあります。
林さんの自宅はとにかくものがたくさん。大量の本はいうまでもなく、ポスターやチラシ、写真、木の実、ボタン、さらには針金まで。
それらがぎっしり詰まった部屋は知的好奇心の種が詰まった宝箱のようでワクワクします。
ものをなかなか捨てられないのは戦中に子ども時代を過ごした際に身についたもの。ものを分類する癖も昔からです。
本はテーマごとに分けられているので、どんな本もさっと見つけられます。木の実や雑多な日用品も、種類ごとにまとめて保管するのが常。
「そのまま置いておけばただのごみですが、分類すると、また別のものに見えてくるところも愉快です」
こうした分類癖は、みずから立ち上げた「〈食〉研究工房」で行ってきたさまざまな取り組みでも発揮されています。
「世界の穀物料理・米料理」「調味料関係図」「世界の暦」など、林さんがまとめてきたものはどれもがグラフや地図を使って、見やすく、わかりやすく情報が整えられているのです。
「ひとつひとつの事柄を世界全体の中で位置づけてそれぞれの関係を知っておけば、何か新しい情報に出合ったときに理解しやすいですから」
散らばっているものや情報を分類・整理することで、暮らしが楽しくなり、興味あることへの探究も進んでいく。
「面白いこと好き」な林さんの毎日を豊かにしてきたのは、きっとそうしたことの積み重ねなのでしょう。
<撮影/林 紘輝 取材・文/嶌 陽子>
林のり子(はやし・のりこ)
日本大学建築学科卒業後、オランダ、パリの建築事務所に2年間勤務。帰国後結婚し、建築アトリエに勤務。‘73年にパテ屋開業。同時に世界の食の仕組みを探る「〈食〉研究工房」を設立。『宮城のブナ帯食ごよみ』(宮城県農政部)など作成。著書に『パテ屋の店先から かつおは皮がおいしい』(アノニマ・スタジオ)。インスタグラム@nori_pateya
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです